今世紀の初め、貧しい孤児トリルビィ(ヒルデガード・ネフ)はパリのラテン・クォーターでモデル台に立って、毎日の糧を得ていた。ある日、彼女はアトリエでスヴェンガリ(ドナルド・ウォルフィット)、ビリイ(テレンス・モーガン)、ザ・レアド、タフィの四人に出会い、そこで歌をうたったが、調子はずれのガラガラ声だった。だが、彼女の美しさにうたれたスヴェンガリは、この不器用な女を教育してオペラの檜舞台に立たせてやると豪語した。その後、トリルビィどビリイは恋仲になり、ザ・レアドとタフィは二人の身分がちがいすぎるので、所詮は不幸を招くと案じるのだった。果して、二人の幸福は長く続かなかった。伯父バゴート夫婦がビリイに内証でトリルビィに因果を含めパリを去らせてしまったからである。トリルビィはロンドンで、追って来たスヴェンガリの妖術のため歌手にされた。スヴェンガリは彼女の過去も名前も忘れるようにコントロールした。偶然、ザ・レアドは音楽会で歌っているトリルビィを発見するが、彼女は思い出すことが出来ず、ただ笑うばかりであった。ザ・レアドの報せで駈けつけたビリイはスヴェンガリの門弟に妨げられてトリルビィに会えず、スヴェンガリと乱闘さわぎを演じた。その直後、トリルビィの舞台を客席から眺めていたスヴェンガリは、心臓マヒで倒れた。トリルビィに強い意志をかけすぎたため、自分の心臓が弱ってしまったのだ。彼の死と同時に、トリルビィの歌はまたもとの調子はずれなものになった。楽屋に運び込まれた彼女を死の危険から救い得るものは、ビリイの強い愛の意志だけであった。