フィリップ・K・ディックの短編小説『追憶売ります』を原作とするSFアクション映画。 ディックは『ブレードランナー』や『マイノリティ・リポート』などの原作者でもあるかなり著名なSF作家で、SFに哲学を混ぜ込んだ独特の作風が特徴。その哲学に重きを置いた『ブレードランナー』のリドリー・スコット的なアプローチとは違い、確かに「主人公がアイデンティティを確立する」という哲学的なテーマを含みつつも、本作はあくまでSFアクションという極上のエンターテインメント作品に仕上がっている。しかし、監督が『ロボコップ』のポール・ヴァーホーベンというだけあって、目玉が飛び出したり、ピンポン玉サイズの発信器を鼻から取り出したり、両腕がちぎれたり、とそんじょそこらのSF作品にはないグロテスクで印象的なシーンも盛り沢山。 そんな映像のインパクトに目が行きがちだが、本作はストーリーも予想以上によくできている。主人公が「自分の記憶は植え付けられたものだった」という衝撃の事実を知ったところから物語が動き出し、本当の自分は何者なのか？追っ手の目的は何なのか？反乱分子のリーダーであるクアトーの正体とは？という謎を残しながら展開され、終盤にはどんでん返しまでも用意されているなど、サスペンスとしても十二分に見応えがある。 公開から30年以上経っていますが、今見ても色褪せない不朽の名作です。