
dreamer

밀크
평균 3.3
ひとりの役者で輝く映画があります。監督がそのスターを好きでしょうがないので、存分に力が引き出され、映画全体に生気が漲っている。 例えば「ロスト・イン・トランスレーション」、ビル・マーレイなしでは考えられない映画でした。 このガス・ヴァン・サント監督の映画「ミルク」も、ショーン・ペンひとりによって、命が吹き込まれた作品だと思います。 舞台は、ヴェトナム戦争末期、公民権運動とカウンター・カルチャーのアメリカ。 40歳を過ぎた会社員ハーヴィー・ミルクは、同性愛者としてカミングアウトし、ヒッピーとなってサンフランシスコにカメラ屋を開業します。 瞬く間にコミュニティーの中心となり、ゲイから頼られる兄貴分となったミルクは、サンフランシスコ市政執行委員に立候補。 4度目の挑戦で当選し、次の市長候補の一人と目されるのだが、同僚の執行委員に殺されてしまいます------。 この作品は、実在の人物を主人公とする伝記映画で、しかも主人公がゲイの殉教者だから、そのままでは社会正義が先に立った告発映画になるところです。 ところが、この映画はそうはならないのです。 活動家とはいっても正義を振りかざすのではなく、人懐っこい笑顔を絶やさないミルクは、人を惹きつける天性に恵まれています。 そして、中年からカミングアウトしたためか、周りの活動家よりも世間がわかっていて、表裏はあるし政治的な取引もするけれど、それさえ魅力になるという得な性分なのです。 ただの殉教者よりも、彫りが深いのです。 それを演じるショーン・ペン。並外れた演技力に恵まれ、死刑囚、知恵遅れの父親、復讐の鬼、さらに大統領の暗殺を企む男というように、極端な役ばかりを演じてきたけど、役のためかどこか力の入ったところが感じられたものでした。 でもこの「ミルク」では、余分な力が抜けて、温かく、柔らかく、弱々しくて、それなのに威厳がある。 こんな演技もあるのかと、映画の見方を変えてしまうほどの素晴らしさ。 アカデミー主演男優賞を受賞したのも納得の演技です。 この映画は、そんな花開いた稀代の名優、ショーン・ペンの演技のうまさを堪能する作品だと思います。