実際にアメリカのあちこちで類似した事件が10年間に渡って起き、その中でも最も悪質かつ被害者の人生に甚大な被害を巻き起こした一件をベースとして、権力に盲従する人間の愚かさをミヒャエル・ハネケばりの陰湿さでえぐったサスペンスです。何の違和感も持たずに現実離れした電話の指示に従い続けるサンドラは、あまりに無知・無責任で、90分間とにかく腹が立ちます。 劇中のあちこちにはサンドラのずぼらでいい加減な性格が巧みに演出されています。今回の標的となったベッキーに見下されてやいないかと訝しげに目線を投げる様子や、駐車場に置かれた車が花粉だらけで全く手入れされていないところ、常日頃接しているにも関わらず従業員の人間関係をまるで把握できておらず、年頃の男の子を裸同然のベッキーと一緒に部屋に置いても何も起こらないだろうと考える想像力のなさ。 アメリカでファーストフード店に勤める従業員は最も低学歴で低所得であるとも言われており、もしやそれすらも犯人は見越して電話を架けていたのではと思わせます。ある1つの事件を通し、人間の危うさやアメリカの経済格差の闇までもが浮かび上がってくるような、重い重い一作です。