
星ゆたか
3.0

노을빛으로 태워지다
영화 ・ 2021
평균 3.4
2022.5.18 2021年キネマ旬報ベストテン2位。 主演女優賞(尾野真千子) 新人男優賞(和田庵) 劇中『まぁ、頑張りましょ』のセリフの口癖の親子役の受賞がお互い嬉しかったとの事。 コロナ元年の2020年の8月から9月にかけての撮影。物語もコロナ禍である事の設定。マスク姿が一年中普通になった日常で、密に人との関係が閉ざされた社会の中、まず接する人間の印象・判断がますます難しくなった。 夫を七年前に高齢者運転のミス(ブレーキとアクセルの踏み間違い)で亡くした40前後のヒロイン。中学生の一人息子と市営団地に暮らしている。事故の加害者(高名な元官僚)から、誠実な謝罪の一言もなく全て金で処理しようとするとの理由で、保険会社からの賠償金の受け取りを拒否している。毎月の生活費の他に、義父の老人ホームの費用(本人の年金で足りない分)さらに亡き夫の愛人との子の養育費6万円もずっと払い続けている。映画ではこの日常の出費の金額が物語の映像にインサートされていく。コロナまではカフェなども営んでいたがその影響で閉めた。昼間ホームセンターの時給930円のパート(後に規則重視の方針で人減らしの為解雇)と、息子には内緒で夜の風俗サービス業(客に年増より若い方がいいと罵倒される)での時給3200円の掛け持ちだ。なんでそこまでしてお金を? 納得しなくても賠償金もらえばいいじゃないか!と誰しも思うし、ここでおおかたの観客はこのヒロインには共感できず、ひいてしまうのではないだろうか。 大抵は他人の印象・評価・判断を私達は、相手の正面の顔やその言動で下す。しかし人には横顔があり背後からの見ためがあるのと同様に。 家族に見せる言動と、外の社会で見せるそれを微妙に使い分けているもので、そのどれを持って好き嫌いの判断を下すかだ。その人間の真のぶれない、誠実さや正直さや信念を好きに思えるのだったら、多少の不満はあっても、互いの距離感を持っての関係はあり!だと思う。100パーセント好きになるなんてあり得ない。時間をかけて好きになればいい。それより、縁があっての関係性ということではないだろうか。 このヒロインは息子にも理解し難いと思われるが、本質的な所では『好きだよ』と言われそれを生きるバネにする。学校でいじめにあっている息子だが、亡き父が残した大量の本、夏目漱石の文学集や宗教の書物を引っ張り出しては、天気のいい日は表でよく読む。そのせいかいじめの実態(市民の税金で安い住宅に住み、賠償金ももらってるに、母親は売春まがりの仕事までしてと、しつこく絡まれる)の把握には消極的な学校から、息子さんの学力は全国のトップクラスですと報告される。批判的な意気込みで学校を訪れた母親はニンマリする。 風俗店の若い同僚とお互いの理不尽な環境について会話する展開は、親子の日頃の問答の会話と同様、この映画の特色の一つだ。 普通ならある程度の互いの状況を嘆いて、別の場面に切り替える所を、さらに続けて『もっと怒るべき!何でそこまでして生きるの?』などと会話を続けてゆく。 ドラマとしては器用にまとまらないである種、破綻している。 けれどそれ以上に《生きる》意味への問いかけの熱いエネルギーのようなものがこの映画には感じられるのだ。 結局この薄幸(幼い時母を亡くし以後父に性虐待、そして現在はヒモのような男の暴力を受け妊娠した子を堕胎させられる)の若い娘は、末期の子宮頸がんを苦に稼いだ金をこの親子の未来に託し自ら命を落とす。演じた片山友希さんはふてぶてしくもあり、なおかつ可憐ではかなげで、何でこの娘は幸せになれないのかと思わせてイイ。 監督石井裕也さんは、この映画について語っている。 「映画演出・個人的研究課題で“芝居こそ真実”という結論に行き着いた。本音と建前を使い分けている日本人に、コロナ禍で更にマスクという布一枚が加わり、果たして自分たちの本音、本心はどこにあるんだと。まるで妥当だとは思えない、上から押し付けられたルールや理不尽な状況に怒りの感情を抱いているにもかかわらず、社会に対して面と向かって言うこともできない。日本人なんて価値のない芝居や嘘を続けているようなものなんじゃないか。映画の嘘って、究極的に全力の嘘だから、他とは違う価値が宿ると思う訳です。でも恥ずかしいけど、これは苦しい時代に立ち向かうための愛と希望の映画です。」 個人的な感想は。 同級生の男に再会し乙女心を再燃し、未来の希望を描き、でも遊びだと言われ舐められたとする所。 ここではその他の全ての怒りまで燃え上がる。 だがこのヒロインに、息子や風俗店の同僚と店長が加わり、この男だけボコボコにされるのは痛快というより気の毒に思ちゃうのは人のいい私だけでしょうか。 また風俗店の店長を演じた永瀬正敏さんに途中から監督は分身としての立ち位置を与えている印象です。 最後のヒロインの一人芝居の撮影なんてまさにそのままズバリでした。でも老人ホームであの芝居だと、皆見せられた老人はポカンでしょうね。ヤボな附けたしですけど。 最後に石井監督の亡き母への最大級の恋歌として紹介されている、万葉集の読み人知らずの歌を。 「あかねさす 日の暮れゆけば すべをなみ 千(ち)たび嘆きて 恋ひつつぞ居(を)る」(日が暮れて行く頃は、どうしようもなくて、何度もため息をついて、あなたのことを恋しく思っているのです)