
星ゆたか

운디네
평균 3.3
2022.9.11 ウンディーネ 水の精の神話伝説。ドイツの作家 フリードリヒ・バローン・ド・ラ・モット・フーケ。 1811年刊行 美しい水の精と騎士が恋に落ち結ばれるが、騎士が他の女性に恋変わりしたため、精霊の掟によって命を落とす物語が下地になっている。 ベルリンの都市開発を研究する歴史家ウンディーネは、博物館でフリーガイドとして働いている。 ドラマの始まりは、その彼女が恋人ヨハネスから別れ話を持ちかけられる所から。 全く納得が行かず、『私を捨てたら殺すわよ』とまで言う。 そんな気分を抱えながら、いつものように、博物館の中の展示された模型を交えながら、1990年前後のドイツ(統一前の東西も含めて)の都市計画の歴史について解説の仕事に従事した。 時おりニコライ教会の鐘の音も聞こえる中、バッハの繊細なピアノの旋律が、主人公達の心の歩みを一つづつ落としていくようで聴き惚れる。とてもいい! 恋人からの別れ話で内心穏やかでないウンディーネに、お茶誘いの声がけをした潜水作業員のクリストフ。 不機嫌なキツい眼差しに尻込みし、後退りした拍子に、背後の棚にぶつかり飾られていた水槽がそのためか破裂してしまった。何故かその時、彼女は水槽の中から“呼びかけの声”を聴いたような不思議な気分を味わう。水槽もろとも中の水も全身に浴び、二人とも倒れかかった。彼女はガラス片で傷も受けるが気がつけば笑みがこぼれた。 この一件で元彼との未練もすっかり切れ、この潜水夫の彼と恋に落ちる。一緒に潜りそれこそ水を得た魚だ。巨大ナマズが姿を隠して行った水中の洞窟の入り口あたりに、見えた〔ウンディーネ〕の文字と🤍マーク。その隙に彼女を見失い気を失い水面下に浮かび上がった姿に大慌てに、人工呼吸の救出。 ビージーズのヒット曲「ステイン・アライブ」。(1978年2月4週連続全米1位) ♪アッ、ハッ、ハッ、ハッ、ステイン・アライブ♪の息づかいのリズムで胸を押す、人工呼吸に合う面白さ。 こんな事もマスマス彼らの関係を親密に結びつける。列車に乗り込んだ相手を、駅のホームを走りながら見送る純愛を久々に見て、何故か感動してしまった。 それに彼が彼女の博物館の解説に感心し、声がけしたことからスタートしたこの恋愛は、単に性的目的だけでなく、彼女の仕事ぶり(社会的人格)知性を尊重しているという意味で貴重だ。 彼女が〔フンボルトフォーラム〕と称する、現代の建築学の教え。“形態は機能に従う”を踏まえての。 そして“王宮再建計画”の解説を急に頼まれ、その翌日仕事で聞けない 彼が頼んで話してもらう所。 ベッドインし裸の彼は寝具を抱えながら、彼女の覚えたての解説に耳を傾ける。まるで少年が女教師の講義を憧憬の眼差しで聞き入るようだ。約6分間の彼女の一人語り。『退屈じゃない?』と言いながら彼への信頼感が深まる一時。 ここは観客にとっても、彼の気分を持ちリラックスしながら、あの戦の終了後の東ドイツの都市計画の見定めの違いが、西ドイツとの色々な面の経済発展の差を生んだのではないかという歴史を学べる場面になった。 あんなに恋の喜びに幸せの実感を得ていた二人だったのに。 暗雲が立ち込めてきたのは、ウンディーネの元彼が、よりを戻したい(性的刺激の欲求だけ)と会いにきたタイミング。 その前に元彼と交際中の女と街頭で スレチガイ、ウンディーネの胸の鼓動の変化に気付いたと、《電話》してきたクリストフ。 その頃クリストフは水中のタービンの故障で、12分間の酸欠のため脳死状態にあり、とても電話出来る状態じゃないと後でわかる。こういう現象をホラー怪奇と解釈するむきもあるが、私は想念が 時間・空間を超越する感覚を、理解する方の人間なので大変興味深かった。 また彼女が本当に愛する人間が、脳死状態になった現実の悲嘆から、元彼を殺す(精霊の掟により)展開や、自身が入水自殺の決断実行に至るやいなや、脳死の彼が正常な状態に回復する瞬間の状況交差もとても感慨深く印象的に観た。 劇中「ファントムペイン」(喪失の痛み)という言葉が出てくる。 東ドイツが多くの市民の抗議の声にも関わらず、1950年代宮殿を爆破し、跡地が荒れた所から生まれた言葉だが。 そのままこの映画の印象の一面でもあった。 監督のクリスティアン・ペッツォルトさん現在61歳。 日本ではまだまだ認知不足気味だが。本国や欧州では中々の人気の、芸術性と大衆性を兼ね備えた監督さんらしい。私も「東ベルリンから来た女」(12)を印象深く見たが‥‥。 彼の特徴として敬愛するヒッチコックのようなスリリングなサスペンス。それにドイツの歴史を背景にした政治的な要素が挙げられるという。人間ドラマを左右する要因の背景に政治的性質があり、サスペンスがさらに効果をもたらす。 【ベルリン】はスラブ語で“沼”、“沼の乾いた場所”を意味し、実際沼地であった街ベルリンという性質と、ウンディーネの神話を掛け合わせた作品となった。