Comment
【ちゃぶ台返し映画】 物語中盤に来る、映画のちゃぶ台返し的な場面転換のインパクト。そこからラストにかけての怒涛の展開も、ぶっ放つ骨太なメッセージも、テクニカルな映像表現も、全てが見ものだと“チカ”える。 ◆概要 2019年・第72回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品(韓国映画初)。「スノーピアサー」の監督ポン・ジュノと主演ソン・ガンホが4度目のタッグ。共演に「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチェ・ウシクら。 ◆ストーリー キム一家は家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送っていた。ある日、長男ギウが豪邸へ家庭教師の面接を受けに行くことに。正反対の2つの家族の出会いは、想像を超える悲喜劇へと猛スピードで加速していく……。 ◆感想 途中大きく変わる場面転換。それを機に、息もつかせぬ怒涛の展開でラストまで。そして強烈に描く格差社会の風刺。そんな骨太なテーマに加え、地下に住む貧民と地上に住む富裕層とのコントラストを視覚的に幾度も盛り込み、映画としても芸術的に作り上げられていると思う。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆場面転換 テンポよく富豪の家に寄生した半地下家族。そこからどんな展開になるのかと思ったら、実は別に寄生していた家族がいたとは。『ゲット・アウト』にも似た、映画のちゃぶ台返しをされるような衝撃で、この映画の1番のインパクト。 ◆怒涛 そこから一気に話が広がり、さらに怒涛の展開へと向かうこの構成が素晴らしい。スマホ争奪戦から、家族の急遽の帰宅にてんやわんや。バレるのかバレないのか?家族の必死の逃避劇が面白い。逃避後の洪水から、サプライズパーティー、そしてラストまで、本当にあっという間だった。 ◆格差社会 洪水時、壊滅的な被害を受ける半地下家族に対して、富豪の家族は息子のサプライズパーティー準備で大忙し。息子に「計画を立てるな」と言い放ってしまう父なんて、絶望でしかない。自身の匂いで富豪家族から疎まれ、人を殺めるまでに至る父の、静かながら根深くうっ窟した精神が、見ていていたたまれなかった。成り上がり、家を買い父を助けるのが妄想であるラストも、本作が描く社会が至って現実のものであり、解決することのない絶望的な暗示だと解釈でき、よりそのメッセージが重く心に残る。 ◆映画表現 二階建ての家に住む富豪に対して、半地下に住む貧民家族、そして地下二階に住む寄生夫婦。最近でいうと『アス』で地上民に反逆を起こした地底のクローンのように、上が富であり明、下が貧であり暗、な本作の図式。半地下の暗い出口から面接へ向かうギウに日差しが当たるパーンの映像も象徴的だったし、逆に地下二階に向かう半地下家族が暗闇に、つまり災いに向かう事を暗示する画作りも印象的だった。さらに、雨が降り洪水となる描写。雨はもちろん上から下にしか降らない訳で、地上では潤いになる雨が、地下では家の壊滅に。そしてその被害を受けるのは貧民達。本作の至る所に散りばめた、そんな格差の図式が極めて芸術的な映画表現だった。 ◆ 「助けて」のモールス信号を解読したダソンの取った行動は?恩のある友達の信頼を平気で裏切るギウ?いくつか消化できない描写があったものの、総じて満足度の高い映画。韓国初のパルムドール受賞となった本作の、アカデミー賞までの賞レースにも注目したい。 ◆トリビア ○近年、韓国では「N放世代」という言葉が生まれている。恋愛、結婚、出産を諦める「三放世代」。加えて就職とマイホームを諦める「五放世代」。そして人間関係と夢すらあきらめる「七放世代」(https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/parasite)。 ○ポン・ジュノ監督はインタビューで「苦境に立たされた人間の姿を描くのが好き」と彼の創作の原点を語っている(https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/parasite)。 ○ 今作の最初のタイトルは「デカルコマニア」(半分に折った紙の片方に絵具を塗り、閉じて開くと左右対称の絵になる遊び)だった(https://bunshun.jp/articles/-/25011?page=3)。
97 likes4 replies