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社会に流されるな! 自分の人生を生きろ! ドンシーゲル監督による『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』をフィリップカウフマン監督がドナルドサザーランドを主演に迎えリメイク。オリジナルはSFホラー史に燦然と輝く大傑作ですが、本作も負けず劣らずめちゃ面白い作品でした。 オリジナルはジャックフィニィの原作『呪われた街』にかなり忠実に作られていましたが、本作は時代の変遷に合わせ「現代社会で人の個性を奪うのは都会」だという発想のもと舞台を都会に移して物語を展開しています。 宙に漂うクラゲのような白いモヤが雨とともにやってくる。不定形生物が触手を伸ばし生物に寄生するのですが、その強烈な生理的嫌悪感を与えるグロテスクなビジュアルを人の目から覆い隠すかのように咲く綺麗な花。表面だけを人に向け、取り入ろうとするその姿からは意図的な捕食者としての悪意が伝わってくるし、人間サイドから考えると自分にとって好ましいものだと世間に表象されること(社会的なムーブメント)を考えなしに接種することの裏側に隠れた危険性を指摘するものでもある。 オリジナルにおいては、共産主義の台頭による異なった価値観が国民の間に蔓延していくことの恐怖を人が別人へと変化することをもって描いていましたが、本作においては脚本家が語ってるように政治的なメッセージは意図的に含ませていない。 本作は「人の個性を奪うこと」=「人間性の喪失」に立ち向かおうとする愛の物語なのであり、社会からの平均化の圧力に抗うことの大切さと難しさを訴えかけてくる。利己的で行き過ぎたミージェネレーション的な個人主義や周りへの無関心から脱し、自身の頭で考えて行動しろという強いメッセージが込められている。 そして印象的なのは音の使い方。背景音を意図的に排し、その中で流れる機械的で無機質な規則正しい音が居心地の悪さを煽る。肝心な場面で固定カメラを多用し、カットを割るのをワンテンポ遅らせ違和感を残留させたまま次のシーンに移行することにより、音による居心地の悪さと相乗効果を生み出し、気味の悪さが減退することなく積み上がっていく。 心が離れていくのを象徴するかのようなキャラクターの移動と追うカメラ。その心の断絶が日常風景を全く違ったものへと変貌させる。そして、少し下から回転させたり揺らしたりする手持ちカメラが、不安な心と街からの疎外感や孤独を語る。社会からの平均化のもとで、周りに目を向けず、個人の幸福を追求した結果、行きつく先に待ち受ける行き詰まりへの警鐘として強烈な危機感を煽る素晴らしい演出の数々に唸らされます。 私はオリジナルの方が好きなのですが、本作も全く引けを取らない傑作だと感じました。ちなみにオリジナルの監督ドンシーゲルがタクシードライバー役、オリジナルの主人公を演じたケヴィンマッカーシーが唯一真実を知る者として、主人公たちに警告を与える役で出演しています。
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