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一切の音楽を拝し淡々と老女ミジャの日々を描くストーリーで、2時間20分の上映時間をとてつもなく長く感じる人も多いはずです。しかし、この映画のテーマは彼女の生きざまそのものであり、一人の人間の人生をここまで克明に鮮烈に描き出した映画はそうそう見れるものではありません。 ミジャは年嵩にあわず派手な服装をし、他人の意向などお構いなしに自分の思い付くままを話続けるなど、かなり突飛な人間に見えます。あげくアルツハイマーを患い、その無神経で空気の読めない言動が、病によるものなのか彼女本来の性格ゆえなのか…さっぱりわからなくなってきます。 これは明らかにイ・チャンドン監督が狙ってやっていることであり、主人公に対して慈愛よりもむしろ無慈悲さ・残酷さを徹底的に突きつけていくのです。そんなミジャが劇中を通して必死に取り組むのが、一編の詩を残すという作業です。詩を書くために必要なのは見つめること。それも遠くのものよりもずっと近くのものをよく観察し、その真理を見究めることが必要です。 ですが、ミジャにはそれが欠けており、最も愛する家族である孫の心すら満足に見えませんでした。彼女が全てを賭して書き上げた詩が読み上げられ、物語が一点に終息していくとき、私の目には1滴の涙も浮かびませんでしたが、その代わりにしばらく身動きできないほどの衝撃を覚えました。心が哭く、慟哭するという言葉の意味を思い知らされる一作です。
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