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【ビーチに行けなくなる映画】 もし急速に歳を取る空間に隔離されたら?人間の狂気と絶望がむき出しになるスリラー映画。極上リゾートにいるような優雅な気分が、恐怖で地の底に叩きつけられる。原作に説得力を加え、多数の伏線を張る脚本力にも注目。 ◆トリビア ○監督のナイト・シャマランは、映画本編に重要な役どころでカメオ出演している(https://virtualgorillaplus.com/movie/old/) ○監督は本作の続編を考えた事があるが、作るつもりは今のところない。(https://theriver.jp/old-m-night-shyamalan-interview2/) ○ 日本映画『藪の中の黒猫』(1968)を参考にしたシーンがある。(https://theriver.jp/old-m-night-shyamalan-interview2/) ○ ナイト・シャマランは「原作は後半にドラマが曖昧になっていくので、原作の前半の設定や展開から自分で創作した」と語っている。(https://news.yahoo.co.jp/byline/saitohiroaki/20210826-00254602) ◆概要 原作:フレデリック・ペータース『Sandcastle』 監督・脚本:「シックス・センス」M・ナイト・シャマラン 出演:「モーターサイクル・ダイアリーズ」ガエル・ガルシア・ベルナル、「ジョジョ・ラビット」トーマシン・マッケンジー、「ジュマンジ」シリーズ アレックス・ウルフ ◆ストーリー 人里離れた美しいビーチに、バカンスを過ごすためやってきた複数の家族。息子を見失った母親の前に現れたのは、6歳から青年に急成長した息子。やがて彼らは、それぞれが急速に年老いていくことに気づく。ビーチにいた人々はすぐにその場を離れようとするが、なぜか意識を失ってしまうなど脱出することができず……。 ◆シチュエーションスリラー クワイエットプレイス、何故か邦画化されるキューブ、ソウ、ギルティ、、数え上げればキリがない、ある条件下で巻き起こる恐怖を描くシチュエーションスリラームービー。本作は、急激に歳を取る空間に隔離されたら人間はどう行動するのか、そこに焦点を当てた作品。次に何が起こるのか、この空間から脱出できるのか、どんなオチが用意されているのか、ドキドキがずっと続く映画だった。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆狂気 発狂しナイフを振り回す外科医、若さを失う恐怖で化物と化す外科医の妻。ビーチで起こる狂気はもちろん、終わってみれば本作ではそのビーチを利用した人体実験という別角度の人間の狂気が描かれていた。この、表と裏の狂気というか、製薬会社の人間の方がよっぽど狂気だという隠喩が効いた作品だと思う。ちなみに外科医が口々につぶやいた“ジャック・ニコルソンとマーロン・ブランドが共演した映画”というのはどうやら「ミズーリ・ブレイク」という作品のようで、ミズーリ川が何年もかけてブレイク(切り傷)を加えてきた起伏の激しい地域を描く映画らしい。つまり本作でもナイフで幾度も人に傷を与えた外科医を比喩する、脚本の遊び心かと、調べてクスッとした次第。 ◆映像美 まあしかしビーチに至るまでの前半は、極上リゾートの優雅な映像満載。自分もリゾートで大勢の客員に迎えられ、自分用に用意されたカクテルを飲んでみたい!(結果それが製薬を混ぜた物だと話は違うが)ビーチの俯瞰映像や、波の映像も(エンドロールの波音も)、とても美しかった。プリスカの手術シーンで、ナイフを入れた体の傷がみるみる閉じていく、この映画ならではの不思議な映像も、ある意味映像美という事では共通項か。 ◆伏線 なぜトレントが入った海水の溜まりには魚がいなかったのか。トレントと友達になったイドリブの手紙の意味。岩の先に見えた光や人影。疾患という共通点で集められた家族たち。終わってみれば、一つも意味のないシーンはないというほど、緻密に張り巡らされた伏線の数々。もう一度見返すと伏線を復習する別の楽しみ方もありそうだ。ただし、あのラッパーが初めからいた意味が果たしてあったのか、そこだけ腑に落ちてないので、もし分かる方がいたら教えてください。 ◆脚本力 原作は製薬会社など登場せず、ただ歳を取っていく要素のみだという。その原作からインスパイアし、歳を取る理由付けから、集められたメンバーの意味づけまで丁寧に説明した本作。いかに想像力が豊かで、伏線を幾重にも張るほど緻密で、それを映像としてしっかり表現できていた事か。まさにナイト・シャマランは映画の申し子としか言いようがない。90歳まで映画監督は成長を続けられると語っているシャマラン(https://theriver.jp/old-m-night-shyamalan-interview2/)。彼の今後の作品にも大いに期待したい!
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