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dreamer

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4 years ago

5.0


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Cries and Whispers

Movies ・ 1972

Avg 3.7

イングマール・ベルイマン監督の「叫びとささやき」は、戦慄的な、衝撃的な、ほとんど完璧といっていい、芸術的な作品だと思います。 19世紀末、スウェーデンの田舎の邸宅で、癌を病み、死期迫る中年の次女(ハリエット・アンデルセン)と、それを見舞う冷淡な長女(イングリッド・チューリン)と多情な三女(リヴ・ウルマン)と、素朴な召使い(カリ・シルヴァン)。 この四人の女たちに、イングマール・ベルイマン監督は、まさに"女"の深奥を凝視し、抉り出します。 激痛に苦しみぬく次女の姿は、あまりの凄まじさで、正視に耐えません。そのうめきや絶叫は、死への恐怖だろうか、生への執着だろうか。 冷たい表情をくずさぬ長女は、二十歳も年上の外交官の夫と、五人の子供までもうけながら、性の悦びを知らず、知らないからこそ夫を憎み、自分が女であることを嫌悪するかのように、我と我が深部にガラスの破片を突き刺すのです。 そして、三女は医師と情事を持って、富裕な商人の夫を、嫉妬の自殺未遂に追いこんだこともあるのです。 未婚の次女も含めて、三姉妹が真の愛を知らないとすれば、豊満な健康体で、無償の愛で、瀕死の次女に仕えて、胸のぬくもりに病人をかき抱く、田舎女の召使いは、まるでボッティチェリの描く聖母像を思わせます。 この作品は、ドラマ風の物語性はなく、だが"演劇"的で、しかも、鮮烈な"映画"だと思います。 ベルイマン監督は、幼年の頃、魂の色は赤いと信じていたそうです。 その、血に似た深紅の色彩を、場面ごとの溶暗溶明に使っています。 赤い"魂"とは、女の性か生か、すなわち、エゴの象徴であろうか。 女の命が叫び、そしてささやくのです。 回想場面で、三人姉妹の美しい母(リヴ・ウルマンの二役)が登場しますが、ベルイマン監督はこの作品を「我が母に捧げる」と語っていて、母の胎内から生まれて、だが不可解な"女"というものを、四人の女たちの内に、冷徹に見据えるベルイマン監督。 その恐ろしいまでの残酷さに、だが厳しい美しさと崇高な感動があるのです。 ここまで"女"を描くベルイマン監督は、あたかも狂人に似て、彼の狂気の前にはひれ伏してしまいます。