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2019年115本目はイランの名匠アスガー・ファルハディの最新作『誰もがそれを知っている』。主演を務めるのは実生活でも夫婦のペネロペ・クルスとハビエル・バルデム。 アスガー・ファルハディ監督は、『別離』『セールスマン』にてイラン国内の宗教的差別や女性の人権抑圧といった問題を描いたかと思えば、『ある過去の行方』では移民として国外に暮らす彼らが直面する軋轢を写し出すなど、常に自国の切迫した状況を鋭い視点で捉えてきました。 そして何れもある一つの事件をきっかけとして次々に不和が生まれやがては崩れ去っていく家族を主人公とした、ミステリ色の強い作品となっています。今回はこのサスペンスフルな趣が極致に達したと言ってもよく、ごく狭い農村で繰り広げられるドロドロした人間模様は見ていてどっと疲れを覚える程です。 その意味では監督の才覚は遺憾なく発揮されていると言えますが、作中で起きる「いさかい」の根底にあるのは昔の恋人との三角関係という昼メロのような単純さ。先に述べたようなこれまでの作品に見られる深みや問題提起が何も感じられません。 舞台も役者もスペインにしただけでこんなに差が出てしまうのかと驚きを隠せず、「ファルハディに外れなし!」の高いハードルを越える1本ではありませんでした。
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