
星ゆたか

Black Book
Avg 3.6
2022.5.24 監督ポール・ヴァーホーヴェンさんは、78歳の時あの「エル ELLE」という強い女の心と性の映画を発表した。 この作品はそれより若い68歳の時の、やはり強くどんな困難にもめげない女性の戦争悲劇を扱ったものだ。 物語は1956年のイスラエルのギブスという田舎町に住むヒロインが、第二次大戦のドイツ占領下のオランダでの、想像絶する残酷な仕打ちの戦争日々を回想する形で繰り広げられた。 この《回想》つまり過去にどんなひどい非道な経験をしたとしても、とにかくその後は生き抜いたという姿を見せての映像観賞は、なんといってもその後続く残酷な場面に観客、少なくとも私には耐え続けられた要因になった。これは一種女性ヒーローものの作りと共通する。 それともう一つ。ナチの迫害のユダヤ人の女性であっても、客扱いが上手で芝居っけもある、容姿魅力の抜群なもと歌手であったという設定は大きい。芸は身を助けるのだ。 登場人物を整理しよう。 まずオランダ側から。逃亡中最初の頃ヒロインを助けるマールというヨットで表れるもと商船の操縦士。 オランダ警察のファン。富裕層のユダヤ人を集めて逃亡の手助けするふりをして、結局裏で通報し射殺させ、財貨をナチスの腹黒いフランケン中尉に横流しする。そして自分はあくまでも逃亡を助けたという立ち位置を後の調査のために残す。そのためレジスタンスの標的になり、さらにその結果ユダヤ人報復の苦境を招く。(一人のナチ関係の犠牲に対し四十人の対価・見せしめの処刑) この最初の時マールも、せっかく再会できたヒロイン・ラハルの両親・弟も他のユダヤ逃亡者十数名と共に全て射殺され、後にも数十名のレジスタンスの仲間が命を亡くす。この後半の時の密告者が誰かは別の話。 その他ナチス側には、ヒロインが情報内通のため近づくが、目的以上に好きになってしまうムッツオ大尉。彼も妻子を英国軍の爆撃、この戦争で亡くしているのだ。だから敗北主義だと言われても、終戦間近の時、抵抗分子と交渉した。 さらにフランケン中尉とムッツオ大尉の言動の取り締まりを、終戦直後保身のために消し去ろうとカナダ隊に協力するカウトナー将軍。 レジスタン側としては。 組織本部のリーダー格・カイパース、愛する同胞・息子を亡くす。射撃の名手・また外科医療の腕もあるハンス。この男が最後のドンデン返しになる。気が弱いが一番人間的青年のテオ、本来なら彼の生死の尺度が普通の人間。 終戦間近でこれ以上無駄な戦死者を出したくないとムッツオ大尉と密約をかわす(後にこれが反逆罪としてムッツオは処刑の対象となる)公証人スマール、全てのこれまでの真実の情報を書き綴ったブラックブックを持つ。故に何者かの指図で夫妻とも最後に殺された。 これらナチス側とレジスタンス側とが、二転三転して誰が裏切り者なのか?とスリリグに時にユーモラス(ハンスがヒットラーの真似をするなんて所は笑わせる)に進められてゆく。 そして何より観客が好印象受ける人物が、ある時突然殺されて死んでゆくその悲しみこそ、戦争なんだとする見解は、活劇としてだけでなく紛れもない現実なんだと思う。またあの終戦直後の解放されて幸せなはずなのに、怒りや憎しみが爆発してしまう被害者言動は、戦争をそのままの愚かさをおさらいしているではないか。ナチに加担した人間はことごとく吊し上げになる。しかしこれまた実際あった話だ。 これは情報源を管理されている社会主義の国などは尚更だ。あの時代多くのドイツ市民が、ナチスの愚行の実態を知らされてなかったと言うし、あんな昔の話だけでなく、今日のロシアや他の社会主義の国々にも言えまいか。私達は知らなかったのだと。