
dreamer

Fail-Safe
Avg 4.0
核兵器の廃絶が叫ばれ続けながら、1964年製作のこのポリティカル・サスペンスの反戦映画の傑作「未知への飛行」は、長らく日本では陽の目をみなかったが、ようやく公開されたのが1982年でした。 この映画は、核兵器の脅威、それを操る軍事体制、更にその奥の政治にまでメスを突き刺した、ショッキングな反戦映画の力作だと思う。 アメリカ軍の戦闘隊が、いつものように定期哨戒のため空へと飛び立っていく。 ところが、異常事態が発生する。不審な飛行物体をレーダーがキャッチしたため、隊はそれを追ってソ連国境付近にいく。 しかもその時、ソ連が実験的に妨害電波を流したため、戦闘隊に"モスクワ攻撃"という誤った指令が出されてしまう。 モスクワへ水爆を投下せよ。隊は任務を全うするため、一路モスクワを目指すことに------。 この責任は米ソ両国にあるのだが、ともかく戦闘隊の6機の飛行機は全て撃墜しなければならない。 アメリカ軍は断腸の思いで、ソ連に戦闘機の極秘情報を流すが、それでも軍力をもとに計算すると、1~2機はモスクワ上空に到達してしまうのだ------。 たった二つのアクシデントが重なったために起こる、第三次世界大戦の危機。 この緊急事態に際し、米ソ両国はどのような手を打つのか------。 派手な戦闘シーンはほとんどなく、映画は緻密に"対処"のプロセスを追っていく。 スタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情」は、このような状況をブラック・ジョークに満ちたコメディとして撮っていたが、この映画のシドニー・ルメット監督は、真正面から厳しく扱い、ひたすらシリアスに撮っていて、全編を通してヒリヒリするような緊張感に満ち満ちている。 シドニー・ルメット監督と言えば、陪審員が黒人少年による殺人事件を討議するプロセスを追った「十二人の怒れる男」という代表作があるが、その演出タッチはこの映画に非常に似通っていると思う。 しかも「十二人の怒れる男」では、12人の男たち、この映画ではヘンリー・フォンダ扮する大統領、ウォルター・マッソー扮するタカ派の軍事研究の政治学者、国防長官、軍需産業の親玉、そして愛国心にとり憑かれた軍人など渋めの俳優が大挙して登場。 その登場人物たちが、それぞれの立場で考え、行動し、ぶつあり合いを描くところまでその構図がソックリだ。 また、「十二人の怒れる男」「未知への飛行」の両作品とも、命の鍵を握る男たちの話のため、一つ一つの言葉が実に重たい響きを持って発せられていると思う。 この「未知への飛行」は、ハルマゲドンが素材のため、戦争に関する名ゼリフを多用し、テクノロジーに関する発言にも耳目をそばだてて聞く必要があると思う。 「誰が機械に投票したんだ。選挙で選ばれた私より偉い」「コンピュータの論理で、人間的要素はありませんが尊重しています」------。 この映画の製作年度は1964年と古いけれども、しかし、シドニー・ルメット監督は、この時代に既に科学信奉に対して、激しく警鐘を打ち鳴らしていたのだ。 テクノロジーの飛躍的な進歩によって、核兵器とコンピュータ仕掛けの軍事システムが生まれ、それがあってはじめてハルマゲドンは起こるのだ、高度な科学の上に立つ平和に安心してはいけないと------。 しかし、人類はもう後戻り出来なくなっており、時が経てば経つほど状況は、さらに悪化していくのだ。 シドニー・ルメット監督は、それを見越した上で、この映画に"戦慄の結末"を用意している。