
Till
4.5

The Last Duel
Movies ・ 2021
Avg 3.7
御年83歳の巨匠リドリー・スコットが監督を務めた歴史ドラマ。 14世紀末のフランスで実際に発生した性暴力事件、そしてそれに伴う決闘裁判を、被害者・被害者の夫・加害者の3人の視点で描く。その特徴的な語り口は黒澤明監督の『羅生門』を彷彿とさせるが、実際に脚本を担当したベン・アフレックとマット・デイモンも同作から影響を受けたという。 しかし、この映画、実は『羅生門』とは180ºとまではいかないものの、90ºくらい方向性が異なる。その最も大きな違いは「被害者のマルグリットの視点だけは紛れもない真実である」という点。『羅生門』もレイプ&殺人というヘビーな事件内容ではあったが、実はそこはさほど重要ではなく、「虚栄心」「エゴイズム」という「人間の醜悪な部分」の方を主題としていたため、「真相は藪の中」で正解だった(それゆえに、レイプ被害者に対する配慮は足りていなかった)。しかし、本作の主題は「性暴力」である。つまり、真相を「藪の中」に葬ってしまってはいけないのだ。本作では『羅生門』で掘り下げられなかった「被害者側」に重点を置くことで、より現代的な物語へと見事にアップデートさせている。 『羅生門』とは異なるアプローチをしているとはいえ、やはり似通っている部分が多いのも事実で、「それぞれの人物(被害者を除く)が話を美化している」という点もその一つ。しかし、ここも『羅生門』のようにそれぞれの話が全く異なってしまうほどの「意図的な美化」ではなく、「無意識的な美化」であるため(本人は美化していることに気付かないレベル)、3人の話は微妙に違う程度にとどまっている(大筋は同じ)。それゆえ、どの話も映像としてはさほど代わり映えがしない。「同じ映像の繰り返しで退屈」みたいな声があると思うが、そもそも本作は、「それぞれの証言」を元にして映像化しているのではなく、「それぞれが記憶している事実」をメタ的な視点で映像化しているので、同じような映像になってしまうのは仕方ないのだろう。ただ、大体が同じ話であるがゆえに「一体どこが違うのか?」という間違い探し的な面白さ、そしてその違いから「それぞれの人物が一体何に重きを置いているのか?」を考察する読み解きの面白さなどがあって、自分は全く飽きることなく観ることができた。 そして、何と言ってもクライマックスの決闘シーン。男同士で決着をつけるという「男根主義的な仕組み」、結局はそこに身を任せることしかできない「女性」、そしてそれを深く考えずに単なる娯楽としてしか捉えない「大衆」。この構図が、現代における、「男性優位社会」、抑圧される「被害者女性(もちろん男性もいるが)」、そして彼女たちに対して冷たい眼差しを向ける「世間」の縮図のようになっているのも見事。それでいて、「手に汗握るスリリングなアクション」としても成立しているのが凄い。ここだけでも一見の価値はあるだろう。 3人の視点から徐々に真実が明らかになっていくサスペンス、そして緊張感溢れる壮絶なアクションといった「映画的面白さ」もしっかりと維持しつつ、「性暴力」や「セカンドレイプ」など現代にも通ずる社会問題に鋭く切り込んだ傑作。こんなに素晴らしい作品が、北米で初登場5位、日本でも初登場11位と興行的に失敗しているのが残念で仕方ないです。