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2020年5本目はエドワード・ノートン監督の第2作目となります、骨太なハードボイルド『マザーレス・ブルックリン』。 ------------------------------------------------------------ もう頭から終わりまでエドワード・ノートンの俳優としての、監督としての才覚にビシビシ痺れまくった素晴らしい作品でした。ストーリーそのものは「かつてのアメリカ」を舞台に繰り広げられるシンプルなノワールなんですけれど、単純に見える筋書きがあらゆる角度から実に繊細に彩られていきます。 ------------------------------------------------------------ チョイ役でも強い印象を残すブルース・ウィリス、図体がでかく威圧感も凄まじい悪役アレック・ボールドウィン、弟の影で人間臭くも狡猾に立ち回るウィレム・デフォー、普通には生きられないことを知り孤独を抱える主人公エドワード・ノートン、そして彼を優しく受け止めるググ・バサ=ロー。ちょっとの事柄でも難解なセリフで語られ、ややもすると退屈さを覚えてしまいそうなシーンでさえ魅力的に映るのは、彼らの演技力のたまものです。 ------------------------------------------------------------ そして「ここぞ」のタイミングで流れ出す官能的かつ優美なジャズとブルースの調べ。ドラム、ベース、ピアノにトランペットと演技に引き続き音楽でも「重奏(層)的」な仕掛けが施されており、醸し出すムードは抜群です。音楽を手がけるのはエドワード・ノートンと長らく旧知の間柄であるトム・ヨークなんですが、主題歌の「Daily battles」も必聴の出来映えで見事にマッチしています。 ------------------------------------------------------------ 最も刮目すべきは、本作のテーマとして取り上げられる「都市開発」を象徴する背景でしょう。人々が暮らす街並み、開発の進む都心部や橋などとにかく全てが美しい。全部がセットではなく、現在のブルックリンをロケーションに撮影されていると思うのですが、繋ぎ目が全く分からないくらい自然で、かつてのアメリカが今もなお「景色として」現代に受け継がれていることを感じさせます。 ------------------------------------------------------------ 移ろいゆくものと、変わらないもの。ブルックリンの姿に目を凝らしているだけで、本作の伝えたいことがストンと胸に落ちてくるような、そんな不思議な一作です。
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