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星ゆたか

星ゆたか

4 years ago

3.0


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The Asian Angel

Movies ・ 2021

Avg 3.2

2022.5 石井裕也監督1983年生まれ。2010年の「川の底からこんにちは」で、その若き才能を絶賛される。以来数々の傑作を残している。 本作制作舞台裏は2019年7月。 当時の安倍政権の意向を受け、日本の経産省が韓国への貿易管理化を発表(ホワイト国から除外)した。その理由として韓国側の徴用工問題を巡る信頼関係毀損を上げ、韓国はそれを受け日本製品不買運動・訪日観光自粛ムード(行かない・買わない・売らない)が一気に広がった。そのため日韓関係の政治経済観光面は最低レベルに落ち込んだ。 そんな中、本作の映画制作の実現化を意欲的に押し進めたのは、2014年釜山(プサン)国際映画祭で石井監督と仲良くなったパク・ジョンボム監督だった。 彼の言う、『映画の真実はペイン(痛み)に宿る』が本作のテーマでもあったことから、2020年2月にようやく韓国ロケがスタートした。 石井監督が中学生の時、母親を36歳で胃癌で亡くし、その年齢を自分が過ぎた時、封印していた自分と痛みを解放しようと書き上げた作品だそうだ。 物語は妻を30歳で亡くした剛が一人息子の学と共に、兄の透を頼ってソウルにやってくる所から始まる。日本での拠点を仕舞い、相当の覚悟で来た小説家の剛だったが、兄の生活基盤は、やれコスメの流通だのワカメのそれだのイイ加減で、早々に立ち居かなくなる。そこで一発逆転を目論み東海岸の街、江陵(カンヌン)を目指すことに。 剛はスーパーの特設ステージで歌っていたソルが、また飲み屋街で涙する彼女を見て、気になっていた。そんな彼女と三度目、ローカル列車内で出くわす。そして今度はソルの三兄妹の墓参りに同行することとなった。 言葉の通じない剛に兄は、2つの言葉を教える。『メクチュ・チュセヨ/ビールください』『サランヘヨ/愛している』 そしてこの映画では、この2つの言葉と共に、もう一つ重要な鍵となるモチーフがある。それはこの二人を結びつける共通言語〔天使〕だ。 日本人は宗教の要素を、キリスト教でも仏教でも迷うことなく受け入れる所がある。しかし韓国側には最初、この天使という概念は理解されなかったそうだ。しかも男兄弟側のそれは“肩を噛む天使”だ。けれど後に登場する芹澤さんという俳優演じる天使で、硬直した既存の価値観を突破しないと、この韓国と日本の関係性は先に進めないという思惑があったと話す。 しかしやはりこの日本の親子、韓国の兄妹の身内の死。そして剛とソルが天使を見たという経験。 唯一兄透を除いて、他の五人の心を寄せあえたのは、ソル兄妹三人が母親を、剛親子二人が妻(母)を、共にその身内を癌という病で亡くしたという“痛み”の共有であった。 劇中、言葉が通じないにも関わらず、お互いの境遇を知ってからずっとお互いを思いやることができるようになる。 私も年齢や状況は違うが、身内を三人癌で亡くしているので、この痛みは分からなくもない。 さて映画の印象としては、まず剛と息子の学が特に途中まで本当の親子に見えない。待てよただこれは見方を変えると、お互い、剛は妻を、息子の学は母親を亡くし、その喪失から心を閉ざし他人行儀になっているということなのか? そして全体的な登場人物の動き。 剛やソンの兄、また兄の透の男の言動。見た目で人や状況を判断しやすい。 それに反しソンや彼女の妹、そして親戚の小学校の教師テヨンの女の言動、まず人の心に耳を傾ける。 それぞれ違いが見えて面白い。つまり男は外へ狩猟する感覚(いかに自分のものにするか)で人を見、一方女は内に安心を守る意識(どうしたら心落ち着けるか)で人を見、言葉を発するのだ。 また所どころ主人公達が、言葉が通じない状況で、何でこう言わない!何でそうするの?と映画を見てて思わず、こっちがイラダチ、ツッコミたくなる場面もある。自分なら決してこうはしない‥‥‥‥。 しかし実際、現実の意志疎通なんて本当に、描かれているように、あんな風にやっぱりうまくいかないし、仮に格好よく振る舞えれば観客は、映画を見ていてストレス解消になるのかも知れないが。 現実はそうはいかないことの方が多いのだ。 そんな意味を含めてこれは日韓関係の、愛する人を失った心の、修復の願いを込めた、リアルなコメデイなのかもしれない。