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【3者の視点映画】 実際にあった、殺し合いで決まる裁判。“3者の視点”で描かれる、工夫が詰まった脚本で、心が痛むほど感情移入、迎えるラストの決闘裁判の緊張感が尋常じゃない。事実に基づく重みのある一本。 ◆トリビア ○ アカデミー脚本賞受賞作「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」以来のマット・デイモン、ベン・アフレック脚本のタッグ。(https://eiga.com/movie/95460/) ○マット・デイモンとベン・アフレックは幼なじみ。2012年には共同で製作会社を立ち上げている。(https://wired.jp/2021/10/15/the-last-duel/) ○本作は黒澤明『羅生門』と同じ「3者の視点」で描かれる。男性2人の視点はマットとベンが、女性の視点は女性脚本家のニコール・ホロフセナーが書き起こした。(https://wired.jp/2021/10/15/the-last-duel/) ○本作の撮影をスタートさせたフランス南⻄部に位置するペリゴール・ノワール地⽅は、スコット監督が1976年に⾃⾝初の⻑編映画『デュエリスト/決闘者』を撮影した場所でもある。(https://realsound.jp/movie/2021/10/post-880030.html) ◆概要 【公開】2021年10月15日 【上映時間】153分 【原作】エリック・ジェイガーによるノンフィクション『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』 【脚本】ベン・アフレック、マット・デイモン 【監督】「エイリアン」リドリー・スコット 【出演】 「オデッセイ」マット・デイモン 「キリング・イヴ」ジョディ・カマー 「スター・ウォーズ」シリーズ アダム・ドライバー 「ゴーン・ガール」ベン・アフレック 『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ マートン・チョーカシュ 『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』クライヴ・ラッセル ◆ストーリー 1386年、百年戦争さなかの中世フランスを舞台に、実際に執り行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした物語を描く。騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友ル・グリに乱暴されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆決闘裁判 実際の決闘の緊張感たるや。マルグリットが背負った火あぶりの刑や、一連のセカンドレイプを見ているからこそ、彼女への感情移入は頂点。まるで天に祈るような気持ちで見てしまう。カメラを同時に何台も使用し綿密に撮影されたという映像の緊張感もあれば、そもそもどちらかが死ぬまで終わらないというあの決闘が事実というリアリティ。これだけタイトルの通りの映画で、タイトルよりも心を揺さぶられる映画はないかも知れない。 ◆3者の視点 初めにカルージュ、次にル・グリ、最後にマルグリットの視点で描かれる本作。ル・グリが襲ったマルグリットは、ル・グリの視点ではやや冷静で(階段を上がる前に靴を脱ぐ)、最中も泣き叫ぶ描写なし。マルグリットの視点では(タイトルで“真実”と残されたのが深い)、靴も慌てて脱ぎ捨て、苦痛に歪み泣き叫ぶ表情が痛々しかった。 ◆マルグリット そんな彼女の視点で掘り下げられていく真実。レイプの告白後、労るどころか体を要求するカルージュ。決闘裁判の決断もほぼ強制、火あぶりの刑の存在という極刑を知らされていなかったマルグリット。裁判場では大勢の面前でセカンドレイプ。決闘勝利後のカルージュはただの英雄気取り。まるで“所有物”として幸せのかけらもないマルグリットの人生。我が子を見つめ(黒髪でなかったのでル・グリの子ではない)、母の笑顔から次第に、その彼女の渇いた人生を物語る表情へと変わるラストカットがとても印象的だった。 ◆色 市場を歩くマルグリットを見つめ、ル・グリがキスをした馬の色は白。マルグリットが頭につけていた白いスカーフ。黒髪のル・グリ。カルージュが育てていた雌の白馬に交尾を始める黒の雄馬。そして“俺がちょっと目を話した隙に”と叫ぶカルージュ。そんな白と黒でマルグリットとル・グリを、ひいては善と悪を暗示する、色の映画表現があったと思う。
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