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ブライアン・セルズニックの小説「ユゴーの不思議な発明」を原作に、マーティン・スコセッシ監督が映画化した2011年のアメリカ映画 ・ 第84回アカデミー賞で撮影賞など5部門を受賞した ・ 1930年代のパリ。駅の時計台にひそかに住む孤児の少年ヒューゴ(エイサ・バターフィールド)の唯一の友達は、亡き父が残した機械人形だった。壊れたままの人形の秘密を探る過程で、彼は少女イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)とジョルジュ(ベン・キングズレー)に出会う。やがてヒューゴは、機械人形にはそれぞれの人生はかりか、世界の運命すらも変化させてしまう秘密があることに気付き…。 ・ 映画が始まる時のドキドキ感は恋愛に似ている。初めて出会うその映画との二時間のデートに、胸が高鳴る。映画を愛してやまないマーティン・スコセッシ監督の新作は、そんな映画に恋した人たちに捧げられた素敵な贈り物だ。 ・ 世界各国でベストセラーになったファンタジー小説が原作だし、タイトルからもファンタジー映画だと思うだろう。しかし、この作品に魔法や超常現象はない。すべての奇跡は、ヒューゴという少年が自ら手繰り寄せるものなのだ。自分の存在意義を求める孤独な少年が、自分と周りの人たちに奇跡を起こす素敵なお話。 ・ この映画には、尽きることのないスコセッシの映画への愛が込められている。フィルムの復元や保護活動にも尽力している監督の映画愛を疑う余地はない。この映画の登場人物でもあるジョルジュ・メリエスは、世界初の職業監督である実在の人物。登場する作品もメリエスの作品で、物語の鍵となる映画「月世界旅行」は世界初のSF映画であり、映画を語る上では外せない作品だ。 ・ 他にも、映画そのものを開発したリュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅への列車の到着」やチャップリン「キッド」、ハロルド・ロイド「要心無用」など、映画創世記の作品の実際の映像が流れていく。ここにスコセッシの映画への深い愛情と、先人たちへの畏敬の念を感じることができる。 ・ フランスが舞台なのに、イギリス人俳優でまとめたキャストも面白い。ヒューゴを演じたエイサ・バターフィールドは、「縞模様のパジャマの少年」などでその非凡さは知っていたが、自然体の演技は好感が持てる。イザベルを演じたクロエ・グレース・モレッツは対照的で、ヒット・ガールから比べると大人っぽくなり、華のある女優となってきた。オーディションでイギリス訛りで話して、スコセッシを欺いたというエピソードは驚きだ。 ・ 実在の映画監督であるジョルジュを演じたのは名優ベン・キングズレー。スコセッシ作品は二度目だが、この人は文句なしの名優。希望を失った老人の哀愁を感じさせる演技は素晴らしかった。出番が少ないけど重要な役であるヒューゴの父をジュード・ロウが演じた。小さな役をスターに頼めちゃうのも、スコセッシが偉大な証拠。 ・ サイドストーリー的に描かれる鉄道公安官と花屋の女性の恋もよかった。すごい嫌なやつなんだけど、心に傷を負っていて、どこか憎めない。そんな鉄道公安官を演じたイギリスの超有名コメディアン、サシャ・バロン・コーエン。ぎこちない表情やわざとらしい表情を作るのが上手すぎる。この人の存在が物語にユーモアを与えている。 ・ もうひとり語らなければならないのが、本屋のラビス氏を演じたクリストファー・リー。生ける伝説と言っていい映画界の宝だ。世界で最も多くの映画に出演した俳優であり、近年も「ロード・オブ・ザ・リング」のサルマンや「スター・ウォーズ」のドゥークー伯爵などを演じ、衰えを感じさせない。90歳になるというのに凄すぎる。スコセッシが起用したくてしょうがなかったのも頷ける。 ・ アカデミー賞で主要部門は「アーティスト」に獲られたものの、撮影賞、美術賞、視覚効果賞、音響編集賞、録音賞を受賞した。この受賞部門から分かるように、ヴィジュアルが際立った作品だ。忘れてはいけない映画創世記の映画を現代のスクリーンに蘇らせた功績も高く評価されたのだろう。 ・ スコセッシはバイオレンス映画など、大人に向けた映画を撮り続けてきた監督だ。そんな監督が子供が主人公のファンタジーを監督したんだから驚いた人も多いだろう。でも、この映画ほど、スコセッシ監督の映画愛を感じる作品はないだろう。誰でも素直に楽しめる作品だけど、映画を知っていれば知っているほど、愛していれば愛しているほど感動できる作品だ。もう涙なしには観られない。映画が大好きだ。
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