
星ゆたか

The Man Without a Past
Avg 3.6
2022.5.24 ♪~時は過ぎ去るけど まだやり直せる 心配しないで 僕らは大丈夫 行く手に輝くのは 希望の光だけ 僕のそばにいてお願い 君がいればうまくいく~♪ 今回他の二作品を見るにあたって18年ぶりに再観賞。 作品の常連カティ・オウティネンさんは、作品がカンヌ映画祭グランプリと共に、主演女優賞を受賞した。 “敗者3部作”の中では一番好きな映画。 列車で夜のヘルシンキに着いた男が、公園のベンチで夜明けを待っていて三人連れの暴漢に襲われた。かなり激しく。最初の場面なので、この監督の作品としてはリアルに、いつものように結果だけ見せるのではなく瀕死の重症を受ける暴力描写だ。 ここはいつものアキ・カウリスマキ調とは少し違う。 病院では植物人間になるぐらいなら、このまま死なせた方がいいと判断される。しかし一人残された病室で、突然ガバット起き上がると、器具を外し外をフラフラ歩き始め、湾岸のコンテナハウスの近くまで来て倒れた。通りすがりのホームレスの男に自分の運動靴と、彼のブーツを取り替えられる。 気のいい夫婦(二人の幼い息子のいる)に怪我が少しよくなるまで面倒みてもらえる。貧しいのはお互い様で、できることは助け合う。 この辺はホームレスの多い貧民くつで、管理人がコンテナ使用料を言い渡してゆく。一緒に脅しのために連れてこられた、ハンニバルと名ずけられた犬🐶に噛みつかせるというが、ちっとも怖そうでない。しかもすぐ懐かれそばを離れない。そのコンテナに電気工事の得意な男が電気の配線も無料でしてくれ、棄てられた電化製品も修理して使えるようにしてくれた。 また定期的に食事の配給にくる《救世軍》の女性イルマと出会い、お互い好意を抱く。彼のコンテナに招き食事を振る舞う。料理が上手と褒められた。 職安に出向くが過去の記憶を一切、頭を殴られたため、名前も思い出せず書類に記入できないので受付して貰えない。 しかし彼女との出逢いのお陰か、なんとなく生きる意欲も出てきた。 《救世軍》主催の四人バンドの賛美歌風演奏曲に、今風のリズム・ロックのヒット曲を使用した方がいいとアドバイス。自分の所のコンテナに、修理して聞けるようになった、ジューク・ボックスがあるから聞きにおいでと楽団のメンバーを誘う。決まりに縛られていたが、自然に体が反応し気分がイイので、早速上司に相談し新しく取り入れた。 そんなある日。名前がなくても構わないとする女性経営者の会社に、再就職のために、給料振り込みの銀行口座を設けて欲しいと言われ銀行へ。一人しかいなく閉店間近の女店員と相談中、ライフルを持った、初老の中小企業の社長が訪れる。倒産し会社の金を、差し押さえられた自分の金を引き出しにきたという。男は犯行後逃走し、金庫室に女店員と閉じ込められた。 その犯人の男にはその後、取り戻した金を、元の従業員の未払いの給料として、住所先に訪ねて手渡して欲しいとその手数料と共に頼まれる。自分は指名手配中だから動けないと。 その後主人公は、警察で捜査の一環で“私は誰?”という写真を撮られ、それが地方の新聞に載ることに。 するとこれは私の夫ですという連絡が、その女性の地元警察からくる。名前も出身地も溶接工という職歴も明らかになった。 イルマとの将来も考えていた彼だったが、とりあえずその元妻のもとへ。 訪ねてみると、ギャンブルぐせが高じて夫婦中もこじれ、離婚成立していて。 その連絡を取りたかったけど、なんの、どこにいるかの、話もなくあきらめ始めていたという状況も明らかに。 そしてそこではすでに、新しい再婚する相手とも暮らしていて、その男は“決闘もじさない”と覚悟していたと。 が、少しも揉めることなく、握手して後はどうか幸せにと(相手の男も聞いていたほど悪いやつじゃないとこぼす)円満解決。これらを演じる俳優は他の作品でも出演していて、例えばこの再婚相手の男は「浮き雲」の主役の人。 そして再び街へ戻った。仲間の住むエリアであの自分を襲った三人組の男達が体の不自由な老人を痛めつけていた。すると近くからゾロゾロとこんな連中に、日頃腹を立てていた者達が表れ、彼らを追い詰めてゆく。画面のあちら側の見えない方へ。管理人も主人公に一緒に行かないのかと聞かれる。『あいつら自業自得だ!』と。 しかし主人公にとっては、そんなことより彼女の待つもとへ行くのが先決だ。 過去を失ったことで、痛い困った思いもしたが。 まったく違った新しい未来に、何のこだわりもなく前進できる幸福。それを得る経験にできた物語。 しかも“敗者”は敗者なりに、それぞれ自分のない所を補い助け合えば、なんとかこれからも生きてゆけるだろうとする感銘を受けた。 (これからの主人公の記憶に問題がない脳機能ならなおさらのことだがが蛇足。)