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2020年162本目は、徹底的な差別を受ける少年の旅路をひたすら描き続ける異色作、『異端の鳥』。 ------------------------------------------------------------ ユダヤ人に対する差別や虐殺を鋭く描いた映画はこれまでに幾つもあれど、わずか12~3歳の子供の視点を通し、「負の歴史」をここまで過激に映し続けた作品は初めてではないでしょうか。彼の旅路はまさに「地獄行脚」で、誰一人彼を人間として扱うことはありません。ユダヤ人というだけで幼気な少年を家畜のごとく労使し、敵とみなした相手を徹底的に叩き潰す「人間のおぞましさ」を延々見せられる羽目になります。 ------------------------------------------------------------ ヴァーツラフ監督のこだわりは行き過ぎも良いところで、本作の世界において人の情けは当然ながら、色も言葉も存在しません。度重なる絶望によって少年の目は彩りを認識することを忘れており、彼の目の前の光景はまさしくモノクロなのでしょう。人々は公用語ですらない人工言語スラヴィック・エスペラント語を話しますが、まさに劇中に登場する大勢は、言葉の通じない化け物のような存在に映ります。 ------------------------------------------------------------ 皮肉なことに『異端の鳥』は彼が自らのアイデンティを確立し、やがて「搾取する側」になるまでの成長物語です。こんなに清々しさをかけらも感じないサクセスストーリーは初めてで、見るには相当な覚悟が必要です。かくいう私も見終わった後はヘトヘトに疲れてしまい、コロナ禍で不幸なニュースが相次ぐ昨今だからこそ、もっと前向きになれる映画を見れば良かった…と後悔するほどなのでした。
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