
星ゆたか

Lunana: A Yak in the Classroom
Avg 3.8
2023.2.10 ヒマラヤ山脈の標高4800mにあるルナナ村を舞台にした、ブータン国の映画。 大変珍しい! 私にとっても人生初鑑賞であろう。 人口70万人ほどの小さい国。 国王がGNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)でなく。 GNH(Gross National Happiness―国民総幸福量)を提唱し、国外には『世界一幸せな国ブータン』とアピールするユニークな国からのメッセージ映画だ。 監督はパオ・チヨニン・ドルジ(83年生まれ)さん。 日本の是枝裕和監督の「そして父になる」や「歩いても歩いても」がお好きだそうだ。 5年の教師義務期間のあと1年を残した主人公・青年ウゲンが、ブータンでも一番の僻地にある村の学校に、無理やり派遣される話。 両親を早く亡くし祖母に育てられ、どうも最近生活に覇気の見られないこの青年。 その祖母や役所の女性担当者からも、少しやる気を出すように“発破をかけられる”のだ。 ブータンにとって“幸せの概念”は、もともと仏教的な考え方にもとずいているらしく。 今ある気持ちを“受け入れる、満足する”ことで物質的なものでないと。 しかし一方で他の国に追いつこうと躍起になり、都会化したいと願っているのも事実で。今日の町にいる若者世代にはTVやインターネットの普及で、その傾向は顕著だとか。 そういった意味でウゲンという主人公の生き方は、現代のブータンの若者を代表する存在らしい。東洋と西洋の考え方の2つの文化が衝突しているのだそう。 ただこれから向かう村では、太陽熱の利用の電源は度々停電したりする状況で。 紙は大切なのでお客様以外はトイレットペーパーの代わりに葉っぱを使うという。 またウゲンが村に行くために買った靴は。 店員のゴアテックス製の。 『ディカプリオもブラット・ピットも履いてる』というお勧めでは、激しい山岳道では役に経たない。防水だがヨソイキなのだ。 普通の安物の長靴の方がいい。それも黒色の売れ筋でなく、従者のミチェンなど男だが赤色を履いている。 この点について監督は。 『どこの国にもそれぞれ文化には、美しさと知恵がある。グローバリーゼーションと言いながら、それだけを目指していると、どこの国も似て来てしまう。』と。 映画は主人公の住むブータンの首都ティンプー(人口10万1238人標高2201m:以下訪れる土地がその人口・標高の表示の演出)から小型バスを乗り継いでガサ(人口448人標高2800m)を降りてから、村の従者二人とロバとの歩行で、8日間かけて標高4800m・人口56人のルナナ村までたどり着くまでの道程が念入りに描写される。 途中泊はほぼ持参のテント。 『もうすぐ下りです』と言われながら、延々と登りの山道が続く。 これは実際に監督が村を訪ねた時、辛くて山登りが苦しくならないための方便として使われたそう。 後1日で村までたどり着くという最後のカルチュン峠:標高5240mの所では。 山の守り神に捧げものと感謝の祈りをじっくり時間をかけて行う。 息絶え絶えのウゲンは早く目的地に歩みを進めたくて、石積の祈りをパスするが。 帰りの時は心境がすっかり変わり、 “旅の安全”を願って捧げものをするようになる。 村人の総勢のしみじみワクワクとした歓迎を受けるウゲンだが、着いてそうそう村長に『僕には無理です。町へ帰りたい。』と申し入れる。 すると無理じいは出来ないと言いながら。 『村の子供達に教育を与えるということは、“未来に触れさせる”とても大切な意義のあること』と語る。 この国は世界で一番幸せな国と言われているのに。 『先生のような若い国の未来を担う人が、幸せを求めて外国へ行くんですね。』とも。 そして明くる朝寝ていると、クラス委員のペムザムという(映画のポスターの)愛くるしい少女に起こされた。(この子母親に死なれ、父親は酒びたりの環境の中健気に暮らしている。) そして何もない砂ぼこりの教室で、7~8人の混じりっけのない瞳を前にして授業の第一日目を始めることに。 この他村一番の歌いての娘、セデュという女性の。 映画の冒頭でも遥か高い山々に向かって♪ヤクに捧げる歌♪を朗々と、声を響かせ聞かせる所が、何とも大自然に調和してこの映画の“色のある風”になっている。 後にオーストラリアで歌手活動が夢のウゲンは、その“ヤクという山牛の歌”を頼んで教えてもらう。 ブータンの学校は厳しい自然環境もあって、二学期制で12月~3月は雪に被われるため閉校になる。 そのためせっかく仲良くなったウゲンも、生徒や村長そして村人達に惜しまれつつ村を去ることに。 これは初めから決まっていたことだが、後ろ髪を惹かれる思いだ。 この辺は数日一緒に生活をした人間同士で、涙まじりの別れを味わう人情感ならではのことで、私も経験している。 カラフルな民族衣装。 男性はゴ(ゴ―/Gho)丈も袖も短いどてらのような衣服の上に。カムニ(Kabney)肩掛け布を斜め掛けするのが正装。 女性はキラ(Kira)という合わせ衣装。 その村人達が歌う《ヤク飼いの歌》 ♪壺に入った水のように心は清涼、清らかに澄み渡り、純粋な心には、澄んだ謙虚な心には、影のように幸せがついてくる♪ 映画館もない町ティンプーでのこの映画の上映会。 ホールを借りてパソコン・プロジェクターでの催しに、三日間かけて駆けつけて来た人もいたそう。 そしてルナナでは上映されておらず、村人達は見てないとのこと。 こういった素朴な魂に触れると、本当に心が洗われる思いだ。 青年がその後行ったオーストラリア。 人口513万1326人。標高19m。