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人間のおぞましい部分を見せることに執着してきたミヒャエル・ハネケ監督がまさかこんな愛の物語を描くとは…と思いきや、やはりこれも我々が目を背けたい事実の1つに変わりはなく、見ていて本当に息の詰まる思いがしました。 本作ではアンヌが麻痺しかつての輝きを失っていく過程が、これでもかとばかりに映し出されます。その背景には一切の音楽もなく、ただ淡々と、そして異常なまでに一つ一つのシーンが長いのです。ここに『丹念』『丁寧』といった言葉では表現できない、ハネケ監督らしい底意地の悪さを感じます。 まるでそれは、アンヌが尊厳を持った人間からただの物へと変わっていくのを見るようで耐え難いですし、夫ジョルジュや雇われたヘルパーのアンヌに対する扱いにも変化が現れるのが見てとれるため、一層心苦しくなります。とにかく全編を通して辛いシーンの連続ですが、誰しもが彼らにいつか来る自分の未来を重ねて見るはずです。 これまでは描写が逆に過剰すぎて違和感を感じることが多かったハネケ監督作品ですが、ここに来て一つの到達点を迎えた気さえする一作でした。
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