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パルムドール受賞作。 冒頭木の麓から枝に沿って映し出されるシーンから、色彩や構図、カメラワークの妙技に見惚れる。編集のテンポ感は重厚であり、各カットが一枚の絵画の様に映える。 ニュージーランドの海岸における一連のシークエンスは、自然界の雄大なスケールを表すと供に、外界の閉塞感と異邦感を醸し出し、先の見通せない大きな入り口として強い印象をもたらしていた。 青みがかった彩度で森の中が撮られており、場にそぐわぬ着物とぬかるみだらけのロケーションによって、不安感とファンタジックさを兼ね備えた湿度の高い画で多くの場面が構成されていた。 マイケルナイマンのスコアは効果的に用いられており、ピアノ主体の劇伴は、主人公の内面描写として、自身で演奏するシーンと同等にストーリーテリングの効果を与えている。 他者とのコミュニケーションにおいて、大きな制約を持っているが、ピアノという媒体を通してより深度の深い意思疎通を図ることが示唆されているように感じ、ピアノを早々に手放し、主人公の理想のコミュニケーションとかけ離れた夫に対し、演奏と同時にコミュニケーションを図ろうとする先住民の方に愛情が芽生えたのであろうか。 ニュージーランドの森の中、部族と開発側の貴族が存在している理由等、理解を深めるには時代背景や環境設定等を調べる必要を感じた。 指を落とされた主人公は、自分とピアノを重ね合わせ、壊れたものとして海にその身をピアノ本体と共に投げ捨てる。一度は無感覚で音の無い墓場へと沈んでいくが、自らの本能的な意思か、運命か、靴を脱いで海上まで浮遊し、生き延びる。 その後義指をつけ、ピアノと一緒に自身が修理され、愛を得て主人公は前に進んでいく。 スクラップアンドビルドとしてこの精神的上昇を考えると、指を落とした夫も、主人公の内面昇華の為に必要なファクターであり、暴力的な愛によって主人公に前向きな未来をもたらすことになったとも考えられる。 脚本に関しては解釈に幅があり、明快な作品では無いが、画的な美しさや、重厚な演出により、確固たる世界感を創り上げている名作。 [後記] 元題は:「The piano 」 主人公のソックスの穴に指を這わすシーン→彼女の堅牢な心にも入り込む隙間がある。 奔放な自分の意思に恐れを抱き、自殺を図ったとも 彼女の望まざるシーンにおいては雨が降り続けており、そんな水と無音の世界は彼女の望む世界では無かった→自殺撤回 だが、無音の世界は子守唄の様に夢の中で表される。→無音世界、水に対するアンビバレンツな感触。 舞台は1800年代、ニュージーランドは未開の地であった。
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