レビュー
cocoa

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1 year ago

4.0


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あんのこと

映画 ・ 2023

平均 3.7

実話を元に作られたと聞いてはいたが、なかなか重すぎて数日間引きずる作品だった。 入江監督が実話をベースにするのは初だそうで、そこにはかなりの覚悟が必要だったとの事。 主演の河合優実さんも監督と同じように 「この子をかわいそうな存在と考えるのはやめよう」と、コメントしていたが…いや、可哀想すぎる。 覚醒剤で刑事に事情聴取される香川 杏(河合優実)。 杏は子ども時代から虐待されて育った。 母親に言われて12歳で売春、16歳から覚醒剤を覚えた。 刑事の多々羅(佐藤二朗)は更正グループに杏を連れていく。 何とかクスリをやめて自立できるように助けたい多々羅。 小さな希望を見つけて生きようと考え始める杏。 しかしその先には不運な出来事が待ち受けている……そんなストーリーです。 河合優実さんを見つけたのは4年位前。 少ない出演時間でも印象に残る演技をいつも見せていた。 初の主演映画は「少女は卒業しない」だったが、カースト上位ではない普通の女子高生役がとても良かった。 さて、今作はまるで実在した女の子(仮名ではハナ)が憑依したかのような演技だった。 ゴミ屋敷に暮らすホステスの母親、春海から暴力を受け続けて大きくなった杏。 それは杏の体が大きくなっても、ずっと続いた支配から逃れられないのがわかる。 (これまでもずっと腕で防御するしかなかったのだろう) そもそも杏は発する言葉が少なく、表情もまったく変わらない。 それは虐待され小学校も満足に通えなかった杏の生育歴から来ているのだろう。 多々羅が力になってシェルターマンションに入れた時に杏はつぶやく。 「フッ、すごい…」 初めて自分の居場所を持ち、介護施設の仕事を頑張る杏の姿。 漢字も書けない杏が小学生用のドリルで嬉しそうに勉強する姿。 字を書く時、ペンを握るたどたどしさに何とも言えなくなった。 多々羅と出版社の桐野(稲垣吾郎)と3人で中華料理屋で過ごす時間はホッとでき楽しい時間だったはず。 それを邪魔する母親は、「もっと稼いでこい」「もっと売ってこい」と言い続ける。 さらに多々羅の性加害が桐野によってリークされ、杏はまた一人になってしまう。 そして世の中はコロナ禍になり、杏の仕事や夜間中学も休みになってしまう。 コロナによって助成金で潤った店や団体は多かったはずだが、杏のような弱者には何も助けはない。 支え合って自分の居場所で頑張ってきた人間の拠り所が突然なくなる辛さがたまらなかった。 実際の事件にはなかったが、マンションの隣室の女性から小さい男児の隼人を押し付けられる杏。 必死に食べさせ、オムツを替え、隼人の母親を待つが、自分の母親の春海に見つかってしまった。 その後は鬱展開しかなかった。 餓死するから売ってこい、と言われて売春する杏。 また感情を殺して無表情になって帰ってきた彼女はどうすれば良かったのだろうか。 「ガキを殺すぞ」と言われた杏は必死に隼人を守ったけど隼人の姿はゴミ屋敷にはなかった。 最後が本当に観ていて苦しくなった。 杏がしっかり幼子を面倒見たのは立派だったよ、と言ってあげたい。 虐待の連鎖はなく、自分の出来る限り隼人の世話をした。 だから一人になった部屋に散らかるおもちゃを見て、何も希望がなくなったのだろう。 世間を知らなかった杏が積み重ねてきたものが簡単に壊れてしまう。 そんな無情感で選んでしまった最期だったのだろう。 とっても重い内容の作品だった。 どこかで今も同じような境遇の人がいるかもしれない。 コロナ禍は確かに異常な社会を作り上げたが、杏の不幸はコロナ禍のせいではなくきっかけに過ぎない。 多々羅のような手を差し伸べる、杏のような人間と接点を持つ誰かが必要だと言うこと。 多々羅は犯罪者だったけれど、(それは容赦なく悪いけれど)、杏を一時的でも救ったのは事実。 でも、何を言っても今は悲しくてたまらない、そんな作品でした。