レビュー
「心震える群像劇ドラマの傑作」 「悪人」の吉田修一原作×李相日監督が再タッグ。「悪人」は好きな作品だったのでこの映画にも期待してたが、期待以上だった。愛した人が実は殺人犯じゃないかみたいな話で、言葉にするとなんかベタでよくある話みたいな感じになるが(実際キャッチコピーもコレでちょいクドい)、実際観るとそれだけじゃない、色んな感情が伝わってくる凄みを端々から感じる作品だった。 千葉、東京、沖縄と、3つの場所/視点で話は展開していく。それぞれの場所で登場人物は固定であり、この3つの人間関係は決して繋がらず、コロコロ視点が変わる同時進行の群像劇なんだが、構成力が上手いのかそういう点が全く気にならなく、すんなりと話に入っていけるのが凄い。逆に交わらずに愛した人が殺人犯に似てるというシンプルな点だけ共通させているコトがややこしい要素を排除して見やすくなっているのかも。しかも、こういうのってどれかのパートがメインになって、後の2つがおざなりになりがちだが、3つともしっかり順当にドラマが展開していくので見応えの比重が偏る、なんてコトも無い。別のパートに移り変わる時に前のパートの台詞や音が被ったりする演出が多いのも良い。 その完成度の高い群像劇ドラマを抜群の演技で見るモノの心を震わせる役者陣。全ての役者が最高の演技をしてくれるので感情移入度も半端ない。特に妻夫木聡と綾野剛のゲイカップルは凄い。ちゃんとした濡れ場もあるし、ゲイに全く無縁の自分でもラストには涙無しではいられない程自然と感情移入してた自分がいる。ちょっとネジが外れてそうな人を演じる宮崎あおいも凄いし、痛みと悔しさがこれでもかと伝わって来る広瀬すず(実際にその場面を見てとしか言えない)も体張った価値はあってお釣りが来るぐらい必見。ラストのなんとも言えない叫びも素晴らしい。 サスペンスとして見れば、犯人判明のくだりは結構唐突で、犯人判明後もちょいモヤッとする。が、それは意図的だろうし、あくまで群像劇ドラマとして見るのが正解なんだろう。こう書くとサスペンス部分をおざなりにしてるみたいな言い方だが、そういうわけでは無く、ちゃんと中盤あたりから疑惑が段々と浮かび上がっていく緊張感は十二分にある。ただ犯人の自白はちょい冗長だったかな。 人間の心の在り方、それぞれの愛の形、人を信じることの難しさ。坂本龍一の音楽も最高にマッチした、涙無しでは語れない傑作だった。
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