
dreamer

エル・スール
平均 3.8
10年に1本しか映画を撮らないビクトル・エリセ監督の長篇劇映画の2作目の作品「エル・スール」。 「南」というタイトルのこの映画は、前作の「ミツバチのささやき」ほど難解な作品ではありません。 父と娘の物語です。闇の中で時計の音がする。 夜明けに少女エストレリャは、父の思い出をたどり始めます。 家の風見のカモメはいつも南(エル・スール)を指して動かなかった。 父は霊力のある振り子を使って、水脈を見つけることができた。 聖体拝受式の時に一緒に踊った父。 その父を思う時、その横顔には謎めいた深い悲しみが影を落としていた------。 エル・スール、若い日を過ごし、そしてそこを捨てた父の故郷。 娘を通して見た父親の肖像にスペイン内戦の影が浮かび上がる。 回想を間にはさみながら、ヒロインの成長と父親の苦悩を、深みのある美しい映像で綴った、静かな感動をもたらす作品だ。 このビクトル・エリセ監督の映画を観ると、映画を作る姿勢もさることながら、やはりもって生まれた感性や才能なんだろうなと思わざるを得なくなります。 この映画のストーリーというのは実にシンプルで、どこにでもあるような普通の話です。 そのなんの変哲もないエピソードが、演出ひとつでこれだけ素敵な映画になるのかと、ただただ驚くばかりです。 エストレリャは2人、8歳の彼女を演じるソンソレス・アラングーレンと、15歳の彼女を演じるイシアル・ボリャン。 8歳から15歳へと成長して、二人が入れ替わるシーンは、自転車を使っていて実に印象的です。 こういう時間の経過の表現方法は、とてもさりげないのに、ほんとにいいなと思いますね。 前作の「ミツバチのささやき」では、家族の風景が欠落していましたが、この映画では母親が欠落しています。 母親はちゃんと登場し、家族としてそこにいるのですが、エストレリャにとっては極端に言ってしまうと、どうでもいい存在なのです。 彼女の視野に入っていないというのか、彼女の視線の先にあるのは常に父親であって、母親ではないんですね。 この不思議な欠落感は、決して不快なものではなく、むしろ妙な心地よさがあるんですね。 ほんとに不思議なんですが------。 そして、この映画のラストを観て、かなりびっくりしました。 どうして? という思い、やりきれなさ、切なさが一気に押し寄せてきました。 悲しい物語ですが、観終わった後の余韻は爽やかでした。 完成度の高い、良質の映画を観ると、心が本当に豊かになるような気がします。