
星ゆたか

マッチ工場の少女
平均 3.4
2024.1.19 1991年3月に日本公開されているアキ・カウリマスキ監督33歳の時の制作作品。 〔労働者三部作〕と言われた中の一作。私はこれを93年6月に、日本テレビの深夜放送したのを録画して見ている。 多分最初のカウリスマキ映画だったと記憶する。 公開時には「ダンス・ウィズ・ウルブス」「羊たちの沈黙」「「テルマ&ルイーズ」「ターミネーター2」などとベストテンを賑やかしている映画です。 その極端に登場人物の台詞の少ないいつもの『特色』。 本作ではその代わり人物の思考をジュークボックスや楽団の音楽の台詞で代用する形式です。 映画全体でも、テレビニュース(中国天安門流血事件など)の音声とこの音楽で進められるなんて、珍しい!。 またドラマの状況展開行動の成り行きを相互のカットバックで見せるのでなく。 片方のリアクションカットの反応で見せて、観客に事の成り行きを想像させる演出は。 この初期の作品でも彼の手法として確立していますが。 いかんせんヒロインの、いくら気の毒な状況とは言え。 その裏切られた行為のお返しの反覆に殺意行動とする(中には酒場で前の相手と同じ“ふり”の見知らぬ男まで)非情さには結局の所、同感できなかったのが当時の印象でした。 この後のカウリスマキワールドのどんな困難な逆境にも、めげず乾いた笑いユーモアで交わしていく良さが全く見えないので。 この映画はあの時点では、あまり私の中では好きな作品として評価してないのです。 この頃私の好きな山田太一さん脚本のTVドラマ「丘の上の向日葵」という作品が93.4~6に放映になっていて。映画の内容と比較するために書きますが。 これは父親の生き方に反発していたヒロイン(島田陽子)が。 父親なしの子供をあえて自ら望み、酒場で知り合った男(小林薫)と一度だけ関係を持ち。妊娠出産し、一人で相手にも知らせず、育て上げている話です。 その息子が二十歳を前にして事故で下半身不随になり。その息子との二人だけの暮らしに迷いが出てきて。 責任を追求するのでなく。 そのかつて一度だけの“愛の相手”(すでに妻子持ち)に再会し、事情を説明して。その“息子”に父親としての話をしてもらい何とか、息子との生活の突破口を、見いだせたらと思ったんです。 相手にとっては青天の霹靂の話なんですが。ただ島田さん扮する女性も魅力的なので。つい抵抗出来ず。 体の関係を結ぶまでの濃厚・緊張・スリリングなドラマです。小林薫の奥さんを竹下恵子、娘を葉月里緒菜。島田陽子の息子に筒井道隆という配役で実に面白い(結構ユーモラスな場面も多い)ドラマでもありました。 主題歌のガース・ブルックスのカントリーミュージック(一時全米ポップシーンを席巻)も大好きになった、私にとって記念的TVドラマです。 つまり長々と別の作品の引用の説明を上げましたが。 「マッチ工場の少女」のヒロインがどういう過去の家庭環境で育ったのか説明されてないので、現在の状況で想像するしかないのですが。 一応母親は母らしい娘への気持ちは少し残っているらしいけれど。 働きものしない義父と、家事を娘にまかせっぱなしの素性不明の母親で。 (ただ演じてる女優さんは、後の「浮き雲」で性格のいい役なもので悪い人には困った事に思えない) 家計も娘のマッチ工場(この描写は珍しい)の給料で賄わせている状況はやはりヒドイです!。 しかも彼女が自分で稼いだ金の一部でオシャレしたくて、赤い洋服を買って帰ったら。 『売春婦!』と娘に平手打ちをする義父って!?(母親は『返しておいで!』)一体? せっかくダンスホールに出向いても誰も声かけてくれないから、少しでも良く見せようと思ったのに。 今回改めて感じた事は、カウリスマキ映画の常連の女優、カテイ・オウティネンさん、当時29才で。 どうしてどうして中々魅力的ですよ。 その彼女、職場の同僚の女性に『妊娠しちゃった』と打ち明ければ。 『あっ…そう』ってスルーされちゃうし。 母親はショックで眠れないからと、義父に『別の所に住んでくれ』と言わせ。 しかも事故で流産し入院している娘にオレンジ一つとお金一枚届けさせるって、一体どういう毒親ぶり?!。 だから“イチコロ”と、その効き目を薬局の女性に薦められたネズミ殺しを瓶に溶かして持ち、殺人に出るヒロインの立ち振舞いも。 〈仕方ない〉とする作劇ではあるけれど。 やっぱりこれって人の生き方として、寂しいし。 少なくともこれ以降のカウリスマキ映画のように。 笑えませんね。残念だけど。 しかししかし、その内容以上に感心したのは、やはり音楽選曲のセンスです。 これがあるので結局の所は、嫌いなカウリスマス作品ではありませんでした。 まだ“常連の犬”は登場させてませんでしたね。 また参考までに、劇中出てくるお金の1000マルッカ(ユーロ前のフィンランド通貨) ヒロインが一晩のお遊びの相手に払われた紙幣。 日本円で40000円位だそうです。 その後妊娠を告げたら小切手(いくら?)が送られてきました。 『おろしてくれ』と。