
星ゆたか

パリ、テキサス
平均 3.7
2024.6.6 およそ40年前に、私は友人と地元の図書館の映像鑑賞施設でボランティアの名画上映会を数年、毎月(基本二本立て)一回日曜日に実施していて。 そこでは観客の感想をアンケートに書いてもらったり。 私あてに便りを書いてもらったりしていた。 その観客の声を手作りの1枚のファンクラブ紙として、次回の鑑賞会に解説紙(これも作品手作り解説)と一緒に手渡ししていたので。 (その原案紙は記念に残していた。) それがきっかけで、今回の劇的再会が実現した訳なのだが。 それはどういう事かと言うと。 その時、隣市の高校生で見に来てくれたKさん(現在東京でフリーランスのイベント演出家として活躍)と。 最近、偶然に通信(手紙)再会という嬉しい出来事があり。 その彼がこの作品が、大学で映像学(Filmology)を専攻するきっかけになったという話と。 またこのKさんとの再会の後押ししてくれた古い友人が。 『明日「午前十時の映画祭」で見ようと思う』との連絡があったので(Line) 私も録画コレクションディスクを引っ張り出し、それこそ40年近くぶりに再鑑賞に至った経緯であります。 さて、ヴィム・ヴェンダース監督(45.8.14出生)といえば。昨年の役所広司主演(男優賞)「PERFECT DAYS」が話題ですが。 この「パリ、テキサス」(84)がカンヌ映画祭グランプリ受賞で。 『遅れてきたニュージャーマンシネマの4羽ガラス(ヘルツオーク、ファスビンダー、シュレンドルフ)の一人』と言われ始めた頃の作品です。 脚本は俳優でも著名なサム・シェパード。俳優としては「ライトスタッフ」(83)なんて有名ですね。 主演のハリー・ディーン・スタントン(1926~2017)さんとは。 まだオハーが決まる前に。 シェパードさんと酒を飲み、意気投合して、監督に推薦したとの事です。 そういえば、今年の3月彼スタントンさんの遺作「ラッキー」(17)を見ました。 映画のポスターの美人、ヒロイン、ナスターシャ・キンスキー(61年出生)さんは。 それこそ監督の「まわり道」(74)でデビューした女優で。 あのロマン・ポランスキー監督の「テス」(79)はとても良かったです。 この二人は年の離れた元夫婦役で映画の内容に、実年齢差35歳がちょうどピツタリ。 あの“のぞき部屋”で。男性客の話し出した『たとえ話』を女性が聞いている内に、自分の過去の話に《似てる?》。 次第に、これは《私達の話》すると、客だとする特殊鏡の部屋越しの男は? 《私の夫》に違いないと気づき、涙が自然に流れてくる“名シーン”は中々見せ場ですよね。 ここで、それまで映画の中で。 弟が『兄さん、この4年の間に何があったんだい?』の疑問が明らかになり。 観客にとっても、やっとこれで、それまでぼやけていた、主人公の生きざまに“焦点”(ピント)があってくる訳です。 またこの主人公はそこで、彼女に息子がホテルで待ってるから会いに行ってほしいと話し。 その息子には、小型手持ちレコーダーに。 父親の心情を録音し、手渡してあり。 その上で母親との対面をさせる訳です。 この映画では。 やっと彼らは素直な気持ちで再会出来る所まで来たのだから。 三人で良かった、良かったって抱き合えばいいのに?。 というのが、普通の観客の感想だと思うのだけれども…。 このラストについて。 サム・シェパードは。 『……本当に壊れたものは彼自身の中にある。その正体を見る為には一人で見つめるべき。彼は母と子を一緒にさせ。彼自身も一緒にできるように旅立つのです。』と語っている。 私はこの最後もそうですが。 その前の母と息子の再会の場面。 40年近く前に見た時も、今回も。 七、八歳位の男の子、本当の両親のように、父親の弟夫婦に大事に育てられた子供が。 こんなにも抵抗なく、実の母とする女性(8ミリ家庭ビデオの映像でしか、4歳の時別れて印象のない母)と抱き合えるものか?と思ったが。 何故なら本当の父親は、これまで父と思っていた人でなく。 ある日突然、父親に連れられてきた父親の兄のその男の人だと言われても。 中々受け入れず、その象徴場面として。 あの公道の両側の歩道に、それぞれ別に歩いている、子供の学校の帰り道の描写があるくらいなのだから。 だからあの母子の再会の場面の印象も。 『うーん?』と感じてしまったのである。 何の抵抗もないの?と。 結局この物語は、若すぎた妻と、年の離れた年長の夫との、上手くいかなかった夫婦関係がこわれ、放棄してそれぞれ勝手に生きていて。 その間、子育てを、父親の弟夫婦に任せっぱなしにしていた兄、その妻が。 やっと、子供を主軸にした人生道を歩き直す一歩にたどり着いた話というのがその話筋だ。 とりあえず母と子の道ずれで進み、父はもう少し自分探しの旅になるけれど。 前半の〈謎〉の主人公父親とその息子と思われる二人の〈過去に時が止まり固まっていた〉関係が。 少しずつ溶きほごされる描写が、自然ロケーション撮影空間の中、実に何とも気持ちいい。 その鮮やかでクッキリ映像と特徴的なギターの音色が響く音楽がいつまでも、乾いた砂漠に染み入る《活きる水》の如く心に残る傑作である。