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NOPE/ノープ
平均 3.3
『ゲット・アウト』『アス』のジョーダン・ピールが監督・脚本・製作を務めたSFスリラー。 『ゲット・アウト』では「黒人差別」、『アス』では「格差社会」、これまで社会的なテーマを巧みに物語に織り込みそれを上質なエンタメ作品へと昇華させてきたジョーダン・ピールだが、これまた最高級のエンタメ作品を作り上げてくれた。「未確認飛行物体を目撃する」というシンプルかつ古典的な設定で誰でも楽しめるSF映画でありながらも、そこは流石ジョーダン・ピール、同時にとても「怖い」映画であるとも思った。 もちろん本作の怖さはホラー映画的な怖さとは全く異なる。そもそもジョーダン・ピールの映画は、ジャンプスケアを多用するアメリカ的なお化け屋敷ホラーではなく、日本的な幽霊ホラーでもなく、その中間をいくような「人間怖い」系のホラーだった。『ゲット・アウト』は「黒人差別」を絡め合わせたまさに人間怖いホラーだったし、『アス』は割と一般的なスリラーに落ち着いた感じはあったがそれでもラストはゾッとさせられるような怖さが用意されていた。本作はそういったホラーも引き継ぎつつ、過去作とはまた異なる新たなホラーが累加されているように感じた。 まず、本作の最大のテーマである「見る者と見られる者」そしてその関係性の「逆転」、これが怖い。よく考えれば『ゲット・アウト』も『アス』も「実は見られていた」という展開だったし、この「見る見られるの逆転」というのは過去作にも通ずる極めてジョーダン・ピール的な恐怖と言える。もちろんこれは資本主義社会における「搾取する搾取される関係」に当てはめることもできるし、「差別・偏見の眼差し」と結びつけることもできるし、様々な解釈が可能だろう。ただ、それを最も即物的な形で表現したのが物語の本筋とはそこまで関連性のないあのチンパンジーの暴走シーン。そこでのカメラは物陰に隠れるとある人物の一人称視点になっており、その人物はチンパンジーが暴走して人に襲い掛かる一部始終を目撃する。しかし、次の瞬間そのチンパンジーが不意にこちら側(カメラ側)に目を合わせてくるのだ。つまり、物陰からチンパンジーを「見る側」だった我々は、一気にチンパンジーから「見られる側」へと変貌する。「見る側から見られる側へと逆転する」ときの緊張感をストレートに味わえる素晴らしいシーンだったし、実はこのシーンが一番怖い。 そして過去作とは一線を画する新たな怖さというのは、「この世ならざる存在を見てしまったときの恐怖」というものである。UFOとかUMAとかそういった人知を超えた存在がこの世界のどこかにいるのではないかと察したときに感じるワクワク感と恐怖感が混在したあのゾクゾクする感じ。それがこの映画には詰まっている。それにその物体が「デカい」のも怖い。とてつもなく巨大な物体が急にこちらに迫ってきたり頭上で覆いかぶさってきたりしたときの巨像恐怖症的な怖さ。そしてその巨大な存在を目の前にした時の無力感・絶望感、これを端的に示したのがタイトルにもなっている「Nope」という単語なのだけど、これは「No」のもっとフランクな言い方で、日本語だと「あ、無理だ」みたいなニュアンスだと思う(タイトル自体が一種のジョークになっていて面白い)。この「この世ならざる存在に対する恐怖」というお化け屋敷ホラーとも心霊ホラーとも、人間怖いホラーともまた別の種類の恐怖。ゴジラの一作目に感じた恐怖に近いが、最先端の映像技術によってその恐怖がさらに増幅されているし、他の映画ではあまり味わった事がない感覚だったので非常に新鮮な映画体験となった。 控えめで人見知りだけど肝が据わったクールさも兼ね備えている主人公のOJをはじめ、天真爛漫でキュートな妹のエメラルド、子供時代に壮絶な体験をしたトラウマを持つジュープ、ちょっとチャラいけど人間味のあるエンジェルなど登場人物のキャラも魅力的だったし、ジョーダン・ピールお得意の伏線回収も見事だった。メタファーやオマージュも多分に含まれているので、鑑賞後に考察するのも楽しい。IMAXでの迫力も凄まじかったし、個人的には今年ベスト級の傑作だと思います。