
Little Titan

ハムネット
平均 3.8
2026年04月10日に見ました。
時は16世紀末。解剖が始まっていた西洋医学。日本よりは進んでいたとは言え、まだまだ発展途上。加えて、イギリスでも最新医学は都市部に限られていて、田舎ではハーブを用いる民間療法が主流だった時代。本作で子供を襲う細菌性の腺ペストも、抗生物質があれば治療可能ですが、フレミングが抗生物質を発見するのは300年以上後の1928年。出産にも母子にリスクが伴い、高い乳児/幼児死亡率を乗り越えて、子を育て上げる事が、現代以上に難しかった時代。母が味わう歓びと哀しみが詰まった逸品でした。 👶 1. 森で産みたい ナウシカやもののけ姫の様に、森で育ったヒロインが、森で独りで長女を出産するシーンや、洪水を起こす大雨でも、第2子を森で産みたがるシーンは印象的でした。双子を苦しみながら出産するシーンが最初のクライマックスで、J Buckley (ヒロイン Agnes)の迫力に圧倒されました。双子と知らず、森で産まなかった事に安堵しつつも、産婆に任せきりだったら、死産と早とちりされていた可能性に震えました。 🌳 2. 腺ペスト 最大のクライマックスは、やはりHamnetの早世。死自体は史実だし、本作の予告でも明示されていましたが、フィクションとして描かれた顛末は、切な過ぎました。Hamnetの行動はオカルトめいていて、医学的にはその行動が妹の命運を握っていてとは考えにくいですが、細菌性の感染症である為、彼の優しさが彼自身の命運を変えてしまったのは、医学的にも疑問が無いことでしょう。亡くなった事を自覚できていないHamnetのイマジナリーが、終盤に再登場する姿は、親心の表れなのかも知れません。 父との対立から、妻(Agnes)からLondon行きを促されたShakespeaが、息子が死んだ時あなたは此処に居なかったと責められるシーンは同情しました。ただ、劇団にかかりっきりだったShakespeaが、妻子を放っていすぎた可能性も高いので、Agnesに溢れる持って行き場のない怒りや自責を受け止めるのも、不肖の夫の仕事なのでしょう。 🎭️ 3. Hamlet Wiki等をみると、「Hamlet」作成のキッカケが、息子Hamnetの早世というのは、完全にフィクションなようです。Hamnetについては早世以外の情報に乏しく、殆ど語られて来なかった事を原作者 M O'Farrell が不憫に感じ、彼の死に意味を与える小説を書き上げたそうです。そもそも「Hamlet」には作者不詳の原作があるとか、Hamletの名もデンマークの歴史家の著作にあるAmlethが由来するとの記載もあります。なので、息子Hamnetの名が戯曲Hamletの由来なのではなく、Hamletの元ネタを知っていた Shakespea が、それに因んで Hamnet と命名したというのが正しそうです。 🎶 4. 劇伴に泣く 劇伴好きには、最終盤からエンドロールの流れが最高でした。 最終盤にかかる "Richter: On the Nature of Daylight" (OST#16)が流れたまま、エンドロールに突入。次に、Hamnetの双子Judithを演じた O Lynesが、"My Robin to the greenwood did go" (OST#17)が歌う。彼女は、2023年のBritain's Got Talentで 、11歳でWickedの "Defying Gravity"等を歌い大注目された少女。確かな歌唱力に支えられつつも、子供らしさが残る歌声で魅了する。そして最後にかかる"Of the undiscovered country" (OST#18)。穏やかだが、次第に熱を帯びる演奏に感情を煽られ、映画で感じた想いがぶり返し、流れゆくスタッフの名を眺めながら、さめざめ泣いてしまいました。