レビュー
horahuki

horahuki

6 years ago

4.5


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ボディ・スナッチャー/恐怖の街

映画 ・ 1956

平均 3.1

影の使い方がめちゃカッコイイ。 些細なことから始まり確信へと変わる重大な発見まで、冒頭から街の中に起こりつつある異変を徐々に感じさせ日常から少しずつ逸脱させていくのですが、重要な転機となるシーンでの影の使い方がとても良かった。 それまでの異変の積み重ねにより、少なからず心の中に生まれているけれども人間としての理性が封印してきた「違和感」が表面上の否定したい気持ちに対する疑惑として色濃くなり、心の中の主導権を握り始めることを表現するかのような覗き込む際の壁に移りこむ影が、そういった感情の二面性を表現しているし、危機の矢面に立たされることを暗示する、あるいは覚悟を表すかのように影→光へと進む道のりと露わになる表情による前振り的な土台形成もめちゃ丁寧。 地下室から登ってくる影が光の元へと現れることで不安から安堵へと感情を揺さぶりつつ、心の中に引っかかる違和感を強烈に植え付けるさり気なさも好きだし、その場限りの演出に留まらず、物語的な伏線としてもしっかりと機能している抜かりなさも良かった。 ベッキーの家を訪ねる時もそうですが、全体的に疑惑だったり不安だったりが心の中で大きなウェイトを占める時に影が大きくなるように感じました。ベッキーの家での背後を捉えた映像の中で一瞬だけシルエットが漆黒になる瞬間があるんだけど、あえてかな。いきなり闇に飲まれたようになるからめちゃかっこよかった。 四人を(ワンカット除いて)ひとつの画面内に収め続けることで、各々のリアクションが受け止め方、危機の捉え方の違いを露骨にわかりやすく可視化し、そこから人間性を表現するだけでなく、動き回る男たちとじっと座る女性たちといった風に好奇心と動揺の性差による振れ幅をも対比的に同一画面内で表現するのは当時の世相が見えて、興味深く感じました。 カットを切り替えるタイミングをワンテンポ遅らせることで違和感とか嫌なムードをその場に滞留させるとともに、物語の中で描き続けた事柄がそこに意味を与え、多くを語らずとも指し示す意図を一瞬で観客に伝えてしまう手堅さとか、宇宙莢という物語が進めば進むほどに荒唐無稽さが増していってしまうお話を、過去を振り返るという映画の中での経験としての実在性と時折挟まるモノローグが外連味を与えることで、この中だからこそ成立する説得力のようかものを持たせてしまってるのも良かった。 本作が共産主義の台頭の恐怖を反映しているというのは良く言われることですが、そういった時代的なタイムリーさを超えたところで普遍性をしっかりと持たせているのが名作として未だに評価されてる所以なのでしょうね。本作は人間性の喪失に立ち向かおうとする愛の物語なのであり、平均化に抗い自身の頭で考えて行動しろという強いメッセージが込められているのだと思います。 原作でも集団ヒステリーへの言及はあったけど、本作の発想はそういったところからスタートしてるのだろうと思いました。理解できないから起こりうることを認めないという人間の科学の傲慢あるいは隠蔽。説明のつかない事件はたくさん起こってるわけだけど、ヒステリーや自己暗示で片付ける。もしくは偶然の産物だと考え、起こるべくして起こったとは認めない思考停止な右へ倣え。共産主義への恐怖の反映はその通りなんだろうけど、強大になり過ぎた権力や人間の能力・科学への過信への盲目的な服従・信頼に警鐘を鳴らす強い意図も感じました。