レビュー
【文字に泣かされる映画】 劇中に出る“文字”にぐちゃぐちゃに泣かされる。社会派なミステリーでありながら、とある形の家族愛が描かれる骨太な一本。後半の話の転換や、ラストで明かされる伏線回収まで、脚本力が光る。 ◆概要 【上映時間】134分 【原作】「さよならドビュッシー」中山七里の同名小説 【脚本】「永遠の0」林民夫 【監督】『64-ロクヨン- 前編/後編』瀬々敬久 【出演】佐藤健、阿部寛、清原果耶、倍賞美津子、吉岡秀隆、林遣都、 永山瑛太、緒方直人 【主題歌】桑田佳祐「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」 ◆ストーリー 東日本大震災から9年後、宮城県内の都市部で全身を縛られたまま放置され餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生、元模範囚の利根泰久が容疑者として捜査線上に浮かび上がる。犯人としての決定的な確証がつかめない中、第3の事件が起こってしまう。 ◆トリビア ○監督が描きたかったのは、「護られなかった者」と「残された者」の共振。(瀬々監督インタビュー)(https://toyokeizai.net/articles/amp/459503) ○本作は仙台市が観光目的に制定した「仙台シネマ」の8作目に認定された。(https://kahoku.news/articles/20210928khn000002.html) ◆ ◆以下ネタバレレビュー ◆ ◆文字 襖に書かれたけいさんの“おかえりなさい”。家族を亡くした3人が、寄り添い生まれた新しい家族。利根が初めて2人に笑顔を見せた、心を開いたキーワードこそがこの“おかえりなさい”。捕らえた上崎の事など忘れ、目を見開き幹ちゃんが駆け寄ったこの襖の文字の、劇中でなんと意味の重いことか。自分より常に人を心配するけいさんが、自分が伏してなお、戻る2人を想い残したその“家族”の文字に、ぐちゃぐちゃに泣かされました。 ◆文字2 円山がSNSに残した世へのメッセージ。“1%の不埒”だと言う不正受給、そして声を上げられない弱者がいる事の社会問題を考えさせられると同時に、あれこそ襖の文字に対して“もっと声をあげてほしかった”という今どきなアンサーレター。けいさんへの想いが溢れた、あれも心に刺さる“文字”だった。 ◆脚本力 そんなアナログの文字とデジタルの文字で対比する、相反するような、でもまっすぐ向き合う家族愛。全体的には、作品の大半は社会派ミステリー。犯人を追うミステリーでありながら、被災地の生活弱者のジャーナリズムも見せつつ、やはりガッツリ泣かせてくる家族愛が芯にあるのが素晴らしい。見事な脚本だと思う。 ◆映画表現 利根が笘篠の息子を助けられなかった過去が明かされるラスト。黄色の服を着た幹ちゃんに2人が重ねた人が一致する、利根と笘篠の思いが繋がるシーンは、利根の幹ちゃんへの想いもグッと伝わってくる素晴らしいものでした。そんな、2人の男それぞれの“護れなかった”人に馳せながら、映像は2人越しの海へ。その2人の“護れなかった”人から、震災で“護れなかった”多くの人々へと想いが広がる、まさに本作のタイトルそのものな、素晴らしい映画表現だと思った。 ◆佐藤健・清原果耶 笑顔のシーンでもほくそ笑む程度、全体的に無骨で常に何かを睨むような、何かを抱えたような佐藤健の目の演技。取調べ室では照明も相まって、上崎の謝罪を要求する目力は鳥肌ものだった。清原果耶も同様、家族のシーン以外では固く心を閉ざした演技が秀逸。前述の襖の文字のシーンでは、それまで上崎に刃を向ける鬼の形相から、文字を見つけ人の顔に戻る演じ分けが素晴らしかった。
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