レビュー
dreamer

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2 years ago

5.0


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男はつらいよ

映画 ・ 1969

平均 3.6

シリーズ第1作の「男はつらいよ」は、シリーズになる予定で作られたわけではないが、この作品は、葛飾柴又の帝釈天のお祭りの賑わいの中に、門前町の団子屋とらやの主人夫婦の甥の寅次郎が、帰って来るところから始まる。 祭りののぼりを若い衆からさっと奪って、のぼりはこうやって振るもんだと、力一杯振ってみせるあたり、流石に寅さんはまだ若く、元気がいい。 寅次郎は16歳の時に親父にぶん殴られて、家を飛び出して以来の20年ぶりの帰郷なのだ。 父も母ももうおらず、秀才だった兄貴も事故で死んで、妹のさくらとは再会しても互いに分からない。 しかし、彼女を親代わりになって育ててくれたおいちゃん夫婦はじめ、みんなから、これがお前の妹だ、これがお前の兄だと言われて、涙の対面となる。 さくらは会社勤めのオフィス・ガールで未婚。 見るからに素直で、純情そうな娘だから、会社の上役などもいろいろ縁談を持ってきてくれる。 そのお見合いに、一度、よせばいいのに虎次郎がついて行く。 そして場違いなホテル・ニューオータニの一室でのお見合いの席上、調子に乗ってバカなお喋りを始めて、見合いをぶち壊してしまう。 この場面での寅さんのセリフのおかしさは、我々観る者を爆笑につぐ爆笑でわかせ、この作品の大衆娯楽映画としての成功を決定したと言っていい。 寅次郎は、この失敗でみんなに迷惑をかけた挙句、おいちゃんたちと大喧嘩して、旅に飛び出して行ってしまう。 そして、奈良で商売をしているところを偶然、帝釈天の御前様とそのお嬢さんに出会い、お嬢さんに誘われるまま、また柴又に戻って来る。 とらやの裏の小さな印刷工場で働いている博という、真面目な青年がいて、かねてさくらに思いを寄せており、二人は結婚することになる。 寅次郎は職人ふぜいに大事な妹はやれない、とかなんとか言って、また波乱を起こすが、博とさくらの誠意が分かると、心から喜んで二人の結婚式のために働くのだった。 寅さんと博が、さくらを嫁にやる、やらないで、対決する江戸川べりの場面が良く、寅さんが例によって、駄洒落まじりの滅茶苦茶な理屈を言いながら、遂に博を認めるに至る過程が、笑いとペーソス、バカバカしさとヒューマニティの絶妙の混合になっていて、この喜劇を観終わって、気持ちのいい、爽やかな余韻を残してくれた。 さくらが嫁に行った後、寅さんは何かというと、帝釈天のお嬢さんのところへ通い、町じゅうに彼がお嬢さんに惚れているという噂がたつのだった。 お上品なお嬢さんには、それに相応しい感じの婚約者がいることも分かる。 さぞかし、お嬢さんは迷惑だったに違いないが、おじょうさんはいつもニッコリして下さるだけだった。 寅さんはある日、お嬢さんに別れを告げて、また旅に出る。 ここで、この映画は見事に哀愁を帯びて終わるのだ。 光本幸子のお嬢さんは、以後に続く、歴代の数多くのマドンナたちの中でも、感じの良さでは最高だったと思う。 この第1作を初めとする初期の作品の中では、なにかと言うと、すぐ寅次郎と掴み合いの喧嘩になる、おいちゃんを演じた森川信が絶品で、笑いの源泉を渥美清と分かち合っていたと思う。 ななにしろ寅次郎が現われた時の、森川信の「あ、あのバカがまたやって来た、ああ大変だ」という、内心のセリフを現わす表情だけで、もう観ているほうは、吹き出せたのだから。