レビュー
Till

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3 years ago

4.0


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オフィサー・アンド・スパイ

映画 ・ 2019

平均 3.3

1894年にフランスで起きた冤罪事件「ドレフュス事件」を基にしたロバート・ハリスの小説を原作とする歴史映画。 ユダヤ人のアルフレド・ドレフュスはユダヤ人であるというだけで理不尽にスパイ容疑を懸けられ、具体的な証拠はおろか、状況証拠すらないまま強引に逮捕された。「ユダヤ人差別」と言えばユダヤ人大量虐殺を行った「ナチス」のイメージがあるが、この事件が起きたのはナチスが誕生する20年も前。つまり、この時代からしかもフランスで既にユダヤ人差別の風潮があったということである。 この「ユダヤ人差別」という題材で監督がポランスキーとなればやはり『戦場のピアニスト』が真っ先に思い浮かぶが、本質的には『チャイナタウン』や『ゴーストライター』に近い(ちなみに本作の原作者であり脚本も担当したロバート・ハリスは『ゴーストライター』でも原作・脚本を務めている)。個人的に『戦場のピアニスト』は(いい映画だとは思うけど)ポランスキーの真骨頂では全然ないと思っているので、本作の「権力にひねりつぶされる恐怖」というディストピア的なテーマはいかにもポランスキーらしくて良かった。 ただ、「歴史を変えた逆転劇」と宣伝されているが、決してそういった映画ではないということは忠告しておきたい。この映画で描きたいのはその「逆転劇」ではなく、先述したような「権力にひねりつぶされる恐怖」である。ポランスキーはこのドレフュス事件を「ユダヤ人差別に対抗し見事無罪を勝ち取った美談」としてではなく「ユダヤ人という理由で理不尽にスパイ容疑で有罪にされた男の悲劇」として捉えているのではないだろうか。この映画の構成からもそれは伺える。ドレフュス事件の経緯を簡単に説明すると「1894年にドレフュスがドイツのスパイの嫌疑をかけられ有罪になり、1899年に再審が行われるもここでも有罪、ドレフュス自身は大統領特赦で出獄するが、1906年でようやく無罪の判決が出る」というものなのだが、この映画で映像として描かれるのは1899年の再審で再び有罪を言い渡されるところまでで、最も映画的なカタルシスが得られるであろう1906年の「逆転劇」の部分はテロップで説明されるだけ。無罪判決が出た瞬間に書類ぶちまけて抱き合って喜びを分かち合うようなハリウッド的ハッピーエンドなんてものはない。これはフランス映画であり、そして何よりもロマン・ポランスキーの映画であるということは分かっておいた方がいいかもしれない。 単調とも捉えられかねない非常に抑えた演出ながらも、しっかりとサスペンスを持続させるポランスキーの手腕は見事。決してインパクトのある作品ではないが、エンタメとしても歴史映画としても完成度の高い良作です。