
dreamer

ザ・バンク 堕ちた巨像
平均 3.0
この映画のキャッチ・コピーである、金融資本主義の本質と闇を突き、金融危機を予見したタイムリーな社会派作品、というわけではないのだ。 もちろん、金融機関の信頼性(credibility)に疑問を投げかけるという点では、タイムリーなのかもしれないが、所詮、その程度のことだ。 では何かと言えば、これは、ダニエル・クレイグ版の007シリーズを、更にぐっと現実寄りにしたような、サスペンス・アクションの佳作であって、決して小難しい映画ではない。 ダニエル・クレイグ主演でMI6の諜報員が、主人公だとああなるし、クライヴ・オーウェン主演でインターポールの捜査官だとこうなると思えばいい。 そういう作品において、現実味のある現代的な「巨悪」が、悪の秘密結社というのではなくて、巨大金融機関であったという話だ。 武器から何から調達し、クーデターでもなんでも唆し、国を借金漬けにしてコントロールし、巨万の富を生み出す。 そんな悪事が表に出ないようにするためには、人の一人や二人を始末することに躊躇はない。 そんな悪党を相手に、濃い顔のクライヴ・オーウェンとその仲間が立ち向かうのだ。 クライヴ・オーウェンという俳優は、濃い顔をしている。 シリアスにしろコメディにしろ、その濃い顔の男が、濃い役柄を、濃い演技で見せるのだ。 そんな彼を観ていて、初めはあまり好きなタイプだとは思っていなかったのだが、これが不思議なもので、いろんな作品で何度もその顔を見ているうちにクセになってくるんですね。 この作品は、そんな彼の顔の印象的な、どアップで始まる。 その直後、カットが変わり、別の男二人が、車の中で会話をしている。会話が終わり一人の男が車から降りて歩き始める。 観る者は、そこで初めて、クライブ・オーウェンが、道路の反対側から、同僚の捜査活動を見守っていたのだということがわかるのだ。 そして、あっと驚く出来事が、クライブ・オーウェンの、ほんの目と鼻の先で起こるのだ。 これは意表を突く、すごい導入部だ。このリズム、この呼吸でこの作品もまた、面白い作品に仕上がっているに違いないと期待が跳ね上がる。 インターポールの捜査官というのは、捜査を行い、情報を関係各国の警察組織に提供することが目的であって、原則的には逮捕するなどの行為は行わないのだそうだ。 しかし、もともと英国の警察組織にいた男だという設定の主人公は、米国やイタリアの現地捜査官らと協力しながら、悪党を追い詰めるための、決定的な証拠を手に入れるため、暴走気味の苦闘を繰り広げていく。 物語の舞台もベルリン、リヨン、ミラノ、ニューヨーク、イスタンブールと華やかに移り変わり、ニューヨークでは有名な観光スポットでもある、グッゲンハイム美術館内部で、大規模な銃撃戦が展開されるのが見せ場になっている。 誰もの記憶に残る、あの特徴的な建築を再現したセットで撮影したパートと、短期間許された実際のロケで撮影したパートを巧みに組み合わせて完成されたアクション・シーンは、臨場感満点で、壁にボコボコ穴があいていくのが、観ていて心配になってくるくらいの迫真の出来栄えなのだ。 現実にあった金融機関のスキャンダルを題材にしているし、ほろ苦さの残る幕切れが用意されていて、単純なハッピーエンドというわけではない。 なにしろ、「悪党」をやっつけたところで、悪事を働く仕組みがなくなるわけではない。 そのあたりが、単純なハリウッド調と一線を画しているわけだが、それが「ラン・ローラ・ラン」で名前を売ったドイツ人、トム・ティクヴァを監督に起用した成果と言えるかもしれない。 米国の娯楽映画のエッセンスや呼吸というものを、欧州の世界観とセンスで消化できる俊英だと言えるだろう。 共演のナオミ・ワッツは、米国側から捜査に協力する役柄で、濃い顔の並ぶ作品にあって、まさに一服の清涼剤とでもいうべき存在であった。