
星ゆたか

飢餓海峡
平均 3.6
2022.2 水上勉・原作『飢餓海峡』は、昭和二十九年九月の、青函連絡船・洞爺丸転覆事故(千人以上の死者を出す)を、昭和二十二年九月にし、映画もそのようにした。その理由は多分、物語に登場してくる八重という女郎が、主人公の男と再会する十年後に、(売春禁止令を前に)生き方を考える設定にするために、七年前にしたのではないかと思う。 事件はその台風の最中、近くの町の質屋で火事があり、盗難に三人の人影、また転覆事故の収容死体が乗客名簿より二名多い。というこの事件を、物語ではその後十年に渡り追い続ける刑事を登場させる。 主人公の男は、逃亡中女・八重に握り飯をもらい、客として関係をもち、その際多額の金を渡す。女はその時男の切った爪を大事に思い出として取っておいた。八重はもらった金で前借金を払い、父親にも療養費を渡し、自由の身になり東京へも出ることができた。この時彼女は女としての喜びと羞恥も感じていた。 そして十年後、新聞写真に刑余者更正事業資金に、三千万円を寄贈した人物が、あの自分に金をくれた恩人だと知り、お礼を言うために会いに行く。しかし男は女を殺してしまう。過去の傷を知られ、現在の身を壊されるのを恐れ、そうしてしまったのであろうか‥‥? この作品にはちょっとしか登場しないけれど、社会の最下層の痛苦をその身辺に漂よわせているような人物が、印象的な姿を見せている。主人公の男も、その人達と同じように、戦後の飢餓の時代を必死に生きてきた日本人の一人である。単にこの男が強悪犯罪者だったという物語ではない。だから逮捕された男が、海に投身した後、流れるメロディが、昭和の戦後という時代に、苦しみあがき死んだ人達に対する鎮魂歌に聴こえてくるのではなかろうか。 演歌歌手の石川さゆりさんが、原作者・水上勉さんと交流もあり、同名の歌を歌謡浪曲のような形で歌い演じていて、これはこれで味わい深いものがあった。